中(なか) 1
あっ…、と思う。
ものすごく気持ち悪かったのが、ソレが脳みそに入ってきたとたん急に消えたのだ。
強い光と強い闇は最初ゆっくりと、螺旋を描きながら私の頭の中を、くるくる、くるくるとうずまきのように回る。それはだんだんと速くなって、わ~~と私が思っているうちに、やがて右の脳みそが闇の中を、左の脳みそが光の中を感じられるようになってきた。
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私の脳みそは右と左とで別々のものを見ている。
右の光の中はいいものばかりだ。輝いていてあたたかなものばかり。小さいころからの嬉しい楽しい優しい思い出。
私が眠るまでゆっくりと本を読んでくれる母さん。おんぶしてくれる父さん広い背中。隣に住んでいた一つ年下の可愛い男の子。一緒にアイスを分けて食べた。静かな父さん、厳しいけどあたたかい母さん。人見知りの私にやっとできた小学校の時の友達。仲良くなった次の年には転校していってしまったけれど。中学の時に好きだった男の子。剣道部でカッコ良かったな。
結局しゃべることができたのはたったの2回だけ。でも嬉しかった。それから今一番大事な、高一の時から仲良くしてくれている、アライサクラちゃんとクリハラミノリちゃん。
あ、ツブツブ出てきた…すごく優しく笑ってくれてる。
ゴトウハルカも…ハヅキモエノも…
ヤグチ…ヤグチが背中を向けてる。ちょっと嫌だな…
『ヤグチ!』私は心の中で叫んでしまう。
こっち、私こっちにいるから…
でもヤグチは私に気付かず友達と下らない冗談を言って笑ってる。
ふわっと光の中で腕が取られて、見るとそれはハヅキモエノだ。
ハヅキモエノが私をヤグチの方へ引っ張って行ってくれる。
そうか、そうだよね、心で思うだけじゃなくて口に出してちゃんと呼ばないと…
恥ずかしいけど頑張って呼ぶよ。
『ヤグチくん!』今度は口に出して言うとヤグチがちゃんと振り向いてくれた…
ヤグチがゆっくりと私に手を伸ばしてくれる…
そして私は同時に強く暗い闇の中をも感じていた。
光のあたたかさも感じながら。暗い闇の中の空気の全部が私一人にのしかかって来る。どこまで続いているのかわからないその真っ暗で冷たい闇が
私の心の一番奥までを震えさせる。
小さくてギスギスの心の私がそこにはいた。
小さくてギスギスの私は縮こまって下ばかりを見ている。頭が上げられないのだ。頭上の闇があまりに重くて。
そしてだんだんと強くなる。
明るい光の中にいるのは私ではなくて、この暗闇にいる方が本当の自分なんじゃないかという気持ちが。
…おかしいな。私はここまで暗い人間じゃない。…はずだ。
でも私は囚われた。暗い闇の中の方に。
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一人っ子で小さい頃住んでいた所には、同じ年くらいの小さい子がいなかったせいもあって、ずっと一人で遊ぶことが多かった私は、唯一隣に住んでいた一つ年下の男の子とたまに遊んでいた。
その子がしばらしくして引っ越して行ってしまうと、自分から誰かを誘うことがさらに苦手になってなかなか仲の良い友達は出来なかった。
ひどくいじめられたりした覚えはないけれど学校でも一人が多かった。
それがまた、寂しい気持ちがするにはするんだけど、無理に誰かと話を合わせたり、無理に笑ったりしなくていい分、一人の方が楽だと思っていることも多かった。
だから?だから私は今こんな暗い所にいるんだろうか。
暗い世界の足元はなお暗くて、私は自分の足元さえ見えない。いつ落ちるんだろう、と思う。
きっとどこかに大きな穴があって、私は落ちてしまうのだ。ここよりもっと暗い、深い所へ。
ビクビクしながらほんの少しずつ歩く。立ち止まっているのも怖いからだ。たぶん私は小さく固まって動けなくなる。
少しずつ歩いてはいるが暗い闇の中なので、自分がどれだけ進んでいるのか全くわからない。
そしてどれだけ歩いたか、どれだけ時間がたったかもわからないがその暗い闇の中、どこかから私を見ている目がある事に気付く。
その目は全く見えないけれど、それは確かに何者かの目で、暗闇の中にいる私をはっきりと見ているのだ。
どうしようもなく怖い。
足を止め真っ暗な辺りを伺う。もちろんそいつは姿を現さない。それでも私を怖がらせて縮こまらせるためにずっと見ている。
私の体はどんどんいびつな形に縮こまっていくのだ。
ああ、と思う。私の体も暗い闇に染まって行く。
ここにはだれもいないのだ。私とあの目の持ち主以外だれも。私はだれにも助けてもらえない。
私の事を見ている何者かの見えない目を気にして、それでもどうにかほんの少しずつ進む。できるだけ目から遠ざかるように、少しずつ足を動かす。
私はヤツの事が見えないがヤツには私が見えているのだろう…
そう思ったとたんだ。
闇の中に赤くて細い光が2つ、はっきりと見えた。
目だ。それは大きな獣の目だ。真っ暗闇の中にあってただ見える赤い目。何も照らさない、何も移さない赤い目。
私は同時に大きなモノの気配を感じた。




