私が選ぶ人 2
「ハヅキさん、ずっとここにいたの?」私はもう一度聞く。
「いたよ。卵もらって帰ろうかと思うんだけどさ。育つかな、ちゃんと。薫ちゃんももらって帰らない?」
ハヅキモエノはニッコリと笑った。
私はその笑った顔で決めた。
誰かの夢に出るのはこの「私」と「ヤグチ」と「ハヅキモエノ」だ。
3人だけ。4人目と5人目はいらない。
私はカエルを触っていたハヅキモエノの手は避けて、腕をガッと掴むと入口に立っているヤグチの横を黙って通り過ぎた。
「ねぇそしたらさ、私のカエルと薫ちゃんのカエル、兄弟って事だよね?」
そう言うハヅキモエノをぐんぐんと引っ張って、私は渡り廊下の方へ向かうが、その前に桜井もこちらへやって来ていた。
「先生!ハヅキさんにします。私とヤグチ君と後もう一人は、ハヅキさんにします」
「ほう」と返事をした桜井の肩にフクロウはもういない。
「山根が急に走り出すから。フクロウがどこかへ飛んで行ってしまった」
「「「「「帰って来るって~~」」」」」
背後から急にデカい声がして振り向くと、そこには5人の田代姉妹がいた。
「ほう~」と桜井がため息をつく。「5人そろってるのは本当に久々見るね」
私はため息も付けない。ただ瞳を左右に動かして5人を眺める。
本当なんだね?本当に5人いるんだね?
「今一つだったよな~」5人の中の一人が言った。
「保健の時間の山根の仕切り~」他の誰か一人が続けた。
「ぐだぐだ~~」
田代ミカと田代リカと後は何だろう…ユカとかピカとか…
つまんないな私、ひねりがないわ。
「きゃああああああああっ!!」
ハヅキモエノが悲鳴を上げたが、それはもう、この上ないほど嬉しげな悲鳴だ。
「すごい…すごい!!5人て!5人いたの?田代先生たち」
私の腕を掴んで聞いてくる。
やだな…ビイを触った手で。
私は黒光りしているビイのぬめっとした表皮を思い浮かべ眉間にしわを寄せた。
ハヅキモエノは私の手を掴んだまま、5人の田代姉妹をキラキラした目でぐるぐると見まわした。
「すごい」とハヅキモエノはうっとりした声を出した。「すごい。田代先生たち。5人もいたなんてかっこ良過ぎ!!」
「すげぇな…」とため息交じりに言ったのは追って来たヤグチだ。「マジすげぇ…」
「ヤグチ~~」と田代姉妹の一人がヤグチを呼ぶ。「もっとガツッと行けよ、山根に。ほっぺたチュウで終わりとか~~」
「ほう?」桜井がヤグチではなく私を見る。「ほっぺたチュウ?!」
ハヅキモエノが校舎中に響き渡るような声で聞き返した。「されたの薫ちゃん?マジで!校内で!」
「されてない!」
ハヅキモエノのテンションの高さに思い切りウソの否定をしてしまう私だ。
だってハヅキモエノの声が大きいから。
「「「「「お~~~~」」」」」田代姉妹がおかしそうに声を合わせた。
「なかった事にされようとしてるぞ、ヤグチ」桜井が笑った。
「いいよ」ヤグチが不機嫌に言う。「どうだっていい」
どうだっていい、っていう言葉に一瞬私の胸がギュン、と縮んだがヤグチは続けた。
「いいよ、オレがちゃんと覚えてて山根が本当は覚えてたら。恥ずかしがってお前らの前でしてないっつってもオレはいいの」
「きゃ~~!!」とハヅキモエノがキラキラの悲鳴を上げるから、私がヤグチの言葉に、うわ~~~~と上げていた心の悲鳴はかき消された。
「カッコいいねヤグチ君。ねぇ薫ちゃん?」
今すごくカッコいいかもと私も思ったけど、そんな事言えないし言える状況じゃない。何しろ5人の田代姉妹に囲まれているのだ。
「田代先生たちに負けないくらいカッコいいよ」
ハヅキモエノはこの上ないくらい嬉しげにつけ加えたが、それを聞いて私の選択は正解だったと思った。
夢に出る3人目をハヅキモエノにして良かった。
たぶんどんな状況になっても、ハヅキモエノは楽しんでくれるんじゃないかな。
「「「「「ひゅううううううう」」」」」
5人の田代姉妹に私とヤグチは囃したてられる。
「うるせえよ!」とヤグチが叫んだ。
「じゃあ手をつなげ」田代姉妹の一人が言った。
手?
思っているうちに田代姉妹の一人にガッ、と手を取られる。ヤグチもハヅキモエノも別な田代姉妹に手を取られている。
田代1、私、田代2、田代3、ヤグチ、田代4、田代5、ハヅキモエノ、そしてそのハヅキモエノの手をまた田代1が取り私達8人は輪になった。
田代1と田代5は知ってるのかな。さっきハヅキモエノがカエル触ってた事。
桜井と後からやってきた高森は輪の外側で見守っている。
「「「「「よし、目をつぶれ~~~~」」」」」
へ?と思った瞬間、私の両手の先から電流が流れてくるように、強い光と強い闇の混ざったものが私の胸へ向かって流れてきた。
「ふぅわっ!!」思わず声を漏らしてしまう。
ヤグチもハヅキモエノも同じように声をもらし、3人とも目を開けたままどうしたらいいのかわからない様子だ。手を引っ込めようとしてしまうのだが、田代姉妹にがっちりと手を取られてしまっているのでそれは出来ない。
痛くはないがひどく気持ちが悪い。
「「「「目をつぶれって!!」」」」」
より強い光とより強い闇になったソレは、私の脳みそに一時に、ぶわんっ!と勢い良く入って来た。
「うわっっっ!!!」




