図書室 2
「すみません先生、私呼ばれたって聞いたんですけど。私今何の本も借りてなくて…」
私はまっすぐに司書の先生のがいるカウンターの脇の専用机の所へ行った。掃除時間までに間がないからだ。
図書室は普通の教室の倍くらいの大きさで、今は15人くらいの生徒がいる。見える限りでだ。
本棚の間で見えない子も何人かいるはず。
「桜井先生がね。この本渡して欲しいって」
先生が渡して来たのは3冊の本だった。
桜井が私に?
私は一瞬のうちに、この3冊の本の中に桜井からのミッションに関する何かのヒントがあると想像した。
よくあるじゃん、冒険もので。
砂漠の中の岸壁の頂きの洞穴に隠された壺の中の古文書とか、異世界に迷い込んで道標となる人物に巻き物みたいなのを渡されるのだ。わけのわからない暗号とともに。
パラパラとページをめくる私。
隠し文字や誰かのかいた落書きとかに多大な、そして私だけが気付くヒントがあるのだ。
パラパラ、パラパラ…光り出すページ…踊り出す見知らぬ文字…めくるめく冒険の…
「どうする?借りてく?」司書の先生は言った。
3冊の本は村上春樹の『羊をめぐる冒険』と、舞城王太郎の『世界は密室でできている』、それとマーク・トゥエインの『ハックルベリー・フィンの冒険』。
どれも読んだ事があるけど…そして3冊とも中も普通の本だし。パラパラと見た感じ、ちょっとした落書きさえ見当たらなかったけど。
共通点は『それまでとは違う世界での冒険』か?
本を渡して来た司書の先生の手元に目をやると、生徒からの新しい書籍購入希望の用紙に印鑑をついているところだった。
購入希望者は2年4組ヌマタハルカ。うちのクラスのヌマタさんだ。ヌマタさんが希望してる本は何だろう…
興味を持ってチラチラと見ると「こら~」と司書の先生がそれを別のプリントで隠した。
「個人情報だから」
そうだ、ヌマタさんにも目を止めたが、私が目を止めた所はもう一つ。司書の印鑑をつく欄に「高森」。
え?高森?
今日まで司書の先生の名前を私は知らなかった。司書の先生なんて誰も名字でなんて呼んだりはしない。みんな『図書の先生』と呼ぶのだ。
「先生…高森って名字なんですか?」
「そうだけど?」
「もしかして生物の…」
言い終わらないうちに司書の高森先生は言った。「知らないって。あんな変なカエル飼ってるやつ」
高森は今日の生物の時間に双子の姉がいるって言ってた。
もしかして…
「私」と私は何とか話を続けて見ようと言ってみる。「今日の放課後、高森先生に水槽を運ぶ手伝いさせられるんです」
「あ、そう」
気のない返事だな。
なんかでも、すごくないか?この高校に二組の双子の先生がいるって。




