体育館で話す私
「「よしじゃあ次~~~。誰が喋る~~~?あ、そうだ山根だったな、山根~~~」」
当然だ。私が一番に何か話せって言われたんだから。
何か…本当にムラヤマさんごめん。
田代姉妹に撫でられたムラヤマさんの頭はぐらぐらと揺れたが、それでもムラヤマさんは晴れ晴れとした嬉しそうな顔をしていた。
「お前大丈夫?」
ヤグチがこちらに顔を向け覗き込むようにして聞いてくるので、私は「ううん」と首を振った。
「大丈夫じゃない。代わってよヤグチくん」
言ってみたら、ヤグチはちょっとびっくりした顔をしてから「しゃあねぇな」と言って立ち上がった。
あれ?そんなにすんなり代わってくれるとは思わなかった。そうかさっきもツブツブと立ち上がってくれたし…
「え、ごめん、冗談のつもりで…」言いかけたが、ヤグチはもう立ち上がって輪の真ん中にいた。
どうしよう…
はっと気付いてツブツブを見ると、ツブツブも私をじっと見ていた。
どうしよう…
「んん…」とヤグチは口ごもる。
田代姉妹に呼ばれた私は立ち上がるべきなんだろうけど立ち上がれない。
「「ヤグチ代わるのか~~~?山根~~」」田代姉妹にも言われる。
「「山根考え過ぎ~~」」
ダメだ。考えよう。考えすぎって言われたけど、今のうちに自分の言うべき事考えとこう。
ごめんヤグチ、ありがとう。
「んん…と」ヤグチはやっぱり口ごもる。
ヤバい、やっぱり私行かなきゃいけない。私はまじめだ。だからやっぱり私が行くべきだと立ち上がりかける。が、それを見たヤグチが私を手招きした。
やっぱりね、最初から出なきゃいいのに。ヤグチに押し付ける感じになった私もいけないけど。
「えと…オレら」
ヤグチは私がそばに行くと言い出したので、私は驚いてヤグチを凝視する。
「一昨日桜井先生に言われて、うちの2年4組の相談窓口になりました」
ざわざわと輪がうごめく。
ヤグチがみんなの前で言ってしまった。
「つまんねぇ事でも大事な事でも何か喋りたい事あったら、オレか山根に言いに来て。何でもいいんで」
良かったヤグチが山根って呼んでくれた。
「何でその2人?」男子の誰かが聞いた。
「あ~、出席番号の遅い順から選ばれた」
「何のためにそんな事すんの?」女子の誰かも聞く。
「さぁ?」とヤグチは言う。
「何かわかんねぇけど、それは桜井に聞いてよ」
「「こらヤグチ~~。先生付けろ。呼び捨てにすんなよ~~~」」
「オレらただの係だから」とヤグチは言った。
「今はオレらだけど、1ヶ月くらいたったら、オレらの前の番号に振られるかもな。たぶんみんな順番」
ざわざわざわ…
「後そうだな…オレの言いたい事…」
ヤグチが私を見てきた。余計な事は言わないでくれ。
「オレは…同中だったやつは知ってると思うんだけど、中学の時は髪ちょっと染めたり、学校さぼったりしてたけど…なんていうか今考えると、あ~何であんな事してたのかなって思ったり、あ~あれはあれで必要だったなって思ったり、それで今は今で中身はそんなに変わんねぇけど、まぁ今があるのはあの時があったからだとか、いろいろ。そいでいろいろ考えてもやっぱそんなには変わんねぇし、それはまたそれで面白いと思えるからいいかなとかな、、何かまとまりのねぇ話だけど、毎日普通に生きれてオレは嬉しいなって思う。まぁ嬉しくない時もあるけどな、それはそれでしょうがない。終わり」
そうか…昨日の名簿に書き込んだヤグチのところ書きなおさなきゃ。
次は私の番だ。もう今度こそ話さなきゃ。
さっぱり話はまとまらない。けどもういいや…
「私…私はさっきヤグチ君が言ったように…」
ヤグチが輪に戻らずに私の隣にいる。
「桜井先生に呼ばれてみんなの話を聞くんだって言われた時、ずごく困惑しました。たぶんみんな私とあんまり喋った事ないから、何か話したい事があってもわざわざ私なんかに話をしに来たりはしないって、桜井先生にも
最初断ったんです。でも私が断っても…あ~みんなあんまり気にしないでください。気にしないでって言うのも変だけど。あの…本当にただの係なんで
気軽に、何か話したい事あったらいつでもどうぞ」
「「それで~~」」
輪に戻ろうとする私に田代姉妹が言った。
「「山根はどう思ってるんだ~~~」」
私?みんなの話を聞く事について?
まだ嫌だと思ってるけど?
でも私は立ち止まって口ごもる。
「…本当は嫌です。さっきも言った通り、私そんなにみんなと話した事ないから。それで…例えばみんなが嬉しかったり楽しいと思う事を話してくれたら、私も普通に聞けるかもしれないけど哀しい話とか嫌な話をしてくれたら
私…嫌な顔しちゃうかもしれないから。何か私、すぐ顔に出るし…」
言いながらマズいなと思う。
こんな事言ったら誰も話をしに来てくれなくなる。
「ごめんなさい。係りに選ばれたのに」
ポスっと後頭部がはたかれた。
ヤグチだ。私ははたかれた所を自分の手で押さえてヤグチを睨む。
「こいつさ、」とヤグチが言った。「オレが中学の時もすっげぇ睨んで来てたんだよな」
「睨んでない!」
「睨んでた。超ガン飛ばしてきてたわ」
「してないよ!見てないって!」
ハハっとヤグチは笑った。「お前すげぇ失礼な奴!見とけよ、ちょっとくらい」
ざわっとみんながざわめく。特に女子が。
もう輪の中に帰りたい。
「終わりです!」私は田代姉妹に言った。
「「マジで!!」」と田代姉妹が言う。
「すみません」




