保健の時間は終わらない 1
「「よし次~~~誰かいない~~~?」」
田代姉妹が声を上げても誰も出て来ない。そうだよね、こんな感じで喋るなんてなかなか出来ない。
ムラヤマさんは偉い。
「「指名してもいいか~~~?」
みんなは顔を見合わせる。
でもツブツブはじっと私の事を見ていて目が合ってしまった。
恥ずかしい…。
でもそのツブツブがゆっくりと立ち上がった。そして少し右手を上げながら言った。
「あ~オレは先生たちのダンス、すごく見たいんですけど」
「「よし!!」」立ち上がった田代姉妹がじゃんけんをした。
負けた方の…もうどっちかわからなくなったが、どっちかがものすごい速さで体育館2階の放送席に向かう。
「お前ら~~~。もうちょっと輪ぁ広げとけ~~」
残った方が私達にそう言った。
ぼぉっとしている私の腕をヤグチが掴んで輪の方へ引っ張る。
輪は田代姉妹に言われた通り大きく広がる。
そうしている間にまた、ものすごい速さで放送席に向かった方が帰って来た。
鳴り始めた曲はウィル・アイ・アムとブリトニー・スピアーズの
『スクリーム・アンド・シャウト』だった。
ざわ!っと最初に大きく私達はざわめいたが後はただ2人の動きを見つめるだけだった。
2人は…どう言ったらいいんだろう。私達が囲む輪の中の2人はそこに居ないかのように踊った。
実際そこで踊っているとは思えないくらいに軽やかに華やかにかっこ良く、2人は動いた。2人の重量感はもう全く感じられない。2人が、というより、私達が囲った輪の中が、もう別の世界のように2人は完璧に素晴らしく踊った。
隣から急にぴゅうううううっと聞こえる。
ヤグチが指笛を拭いたのだ。
「すげぇ…」というため息のような声もあちこちから聞こえた。
「あいつら、あそこにいないみたいに踊ってる」
ヤグチが言うので私は驚いた。
ヤグチが私と同じように感じている。
「ここだけ、」とヤグチが人差し指を田代姉妹に向けて丸く円を描いて見せる。
「違う世界みてぇ。なんつぅか…神々しいな。すげぇ」
その大きくてごつい体から想像もしなかったしなやかな体、軽やかな動き、激しく、キュートに止めどなく動く全身。
そしてもう1曲。ゼッドとマシュー・コーマの『スペクトラム』。
踊り続ける2人の世界の輪を作った私達は、もう体のどこも動かせないし、誰も口を開けない。誰一人リズムもとれないし、もちろん手拍子なんか叩けない。
ただその動きを凝視するだけだ。
すごい…すごいな田代姉妹。
こんな田舎の地味な進学校で体育の先生とかしてる場合じゃない。2人は曲と一体化して、回り、飛び、跳ね…
この二人はなんだろう、と思う。
何なんだろう。普通の人間なのか?
普通の人間じゃない。普通の人間はここまで綺麗に踊れない。私達は全員、輪になって夢を見ているのだ。
曲が終わってもしばらくみんなしんとしている。ヤグチもあれきり指笛を吹かなかった。
「すげぇな」とヤグチが言うのが聞こえて「なんつーか夢を見てるみてぇっつーか」
とまた私が思っていた事と同じことを言った。
「なんかよくわなんねぇけど、こう…胸の中に今大きな、でも気持ち悪くはない、何かわけわかんない、風船みたいなもんが膨らんだっつうか…
なんだろうな、全然うまく言えないけど」
ヤグチ気持ち悪い。私と同じ事を感じている。
みんなも呆然としていた。
田代姉妹は2人でゴニョゴニョ話をしている。「あそこの手の動きが…」とか「敢えてあたしがワンテンポずらすから…」とか、そんな話が聞こえる。2人の反省会だ。




