大切な気持ち 1
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私はたぶんすごいバカなんだと思う。
夢にサクラちゃんが出てきたような気がする。
ミノリちゃんも出てきたような気がする。
…わからない。
たぶん高森のお茶がものすごく利いて、私がいかに意識をすんなり失ったかと言っても、まるで何も覚えていないなんて…
朝起きたら頭がすっきりしていた。
こんなにぐっすり眠れた事なんて本当に久しぶりだ。去年の学校の創立記念の行事で登山をした夜以来。
どうしよう…ヤグチとハヅキモエノになんて言おう。
そんな心配はあるのに、ぐっすり眠れたからか朝から食欲もあって、いつもの倍くらいの朝ごはんを食べて、着替えている所にドアチャイムが鳴った。
ピンポ~~ン。
…ドアチャイム…そうだ!ドアチャイムが鳴って開けたら…
私は瞬間的に全てを思い出した。私が続けて見た夢の事を。
全て?
いや、どれがどんな風に全てなのかわからない。私が今覚えている事がきっと全部なわけがない。それでもとにかく覚えている事は思い出した。
そうだよ出て来た出て来た…サクラちゃんとミノリちゃんが出て来てくれたのを私はちゃんと覚えている。田代姉妹とおそろいのオレンジ色のジャージを着たサクラちゃんミノリちゃんに助けてもらった。
ありがとう!サクラちゃん!ミノリちゃん!
ピンポ~~ン、ともう一度ドアチャイムが鳴らされた。
「ちょっと薫~~出て~~」と台所から母さんが叫ぶ。
んん~~と、誰なんだろう…夢ではまずヤグチが来て、ツブツブが来て、
サクラちゃんとミノリちゃんが来てくれた。
そしてこのチャイムは誰なんだろう。誰なんだろうっていうか、このチャイムは、そして私の今いるここは、現実なんだろうか。
確かに美味しかったのだ。今朝のご飯。私は首から下の全身をじっと見る。
「ホラ薫~~~~、」母さんにもう一度叫ばれた。「早く出てごらん」
ドアの向こうから「先に行っていいから」という声が聞こえる。
ヤグチの声だ。
「残念だけど今日はダメ」と聞こえたのはサクラちゃんの声。
サクラちゃん!
「てゆうかよく来れたよね?肝心な時には全然間に合わなかったのに」
ミノリちゃんだ!
急いでロックを外し私はドアを開けた。
「「おはよ!!」」とサクラちゃんとミノリちゃんが元気に声を合わせてくれる。
「おはよう!」
私は二人が来てくれた事が嬉しくてたまらないが、とたんに不安にもなる。
二人がにっこりと笑うので、私もにっこりと笑うが俄然不安だ。
「はよ」横からヤグチが顔を出した。
「…おはよう」
ヤグチの顔に元気がない。
「やっぱアライたち先に行って」とヤグチが言う。
「ダメだって」ミノリちゃんが笑いながら言った。
「ヤグチ君が先に行きなよ」サクラちゃんも笑って言う。
「薫ちゃんを助けたのは私とミノリだから。田代先生たちとね」
「あ~~」とヤグチが唸った。「…だから!ごめんて!」
え~と…やっぱりこれは何個目かの夢なの?
だって三人とも私が見た夢と同じ夢を見ていたみたいな…
確かに夕べ眠る前、ヤグチとハヅキモエノと同じ夢を見るようにと思いながら高森のお茶を飲んで寝たのだ。でも夢を共有できるなんて、そんな事が出来るわけがない。
だからここはまだ夢の中なんじゃないかと思うわけだが、でも違う。
ここは本当の、私がいた現実の世界だ。
いくつもの夢の中でも、その中では私はやたらリアルさを感じていたけれど本当はそうじゃなかった。
私がいて、見て、聞いている、私がここにいる今この場所が現実だ。
サクラちゃんとミノリちゃんがまたにっこり笑ってくれているので、私は心を決めて聞いた。
「私、サクラちゃんとミノリちゃんの出て来た夢を見た。私の事を助けに来てくれた」
そこまで言って二人の顔をじっと見る。二人も真っ直ぐに私を見てくれている。
「すごく嬉しかった…助けに来てくれて本当にありがとう」
二人の顔がぱぁっと明るくなった。そして逆にヤグチの顔が暗くなる。そんなヤグチを二人が少し笑いながら言った。
「「まぁあの時はちょっと私たち、怒ってたけどね」」
「でもね、」と私は言った。「ヤグチ君やハヅキさんともちゃんと会ったんだよ。二人もちゃんと私を探しててくれたの、私思い出した。一緒に美術準備室に入って、それで、…キタがあんまり気持ち悪くてその夢からは覚めちゃったの、私が」
「「そっか」」と言ってやっと二人はヤグチに優しく笑った。
「助けてあげられて良かったよ。またいつでも行くし、」とミノリちゃん。
「私たちがヤバい時には薫ちゃんが助けてね」とサクラちゃん。
二人の言ってくれている事はすごくうれしいが私はまだ迷っている。
「なんか今さらだし、それでもやっぱり変だなって思うんだけど、私はサクラちゃんとミノリちゃんと、同じ夢を見てたって事なのかな?それとも私の夢に二人が出て来てくれたって事?なんかすごく変な質問だよね?」
自信なく聞いてみる。
「「同じ夢だよ」」と二人が言った。「「誰のだかわからないけどね」」
「昨日の放課後薫ちゃんたちおかしかったから」とミノリちゃん。
「いったん学校から出たんだけどもう1回戻って桜井先生に聞いたんだよ。
薫ちゃん達の事」とサクラちゃん。
二人とも高森にペットボトル入りのお茶を渡されたらしい。
「「すんごい不味かった」」二人は顔をしかめて言った。
「なぁ!」静かにしていたヤグチが切り出した。「アライとクリハラ、ほんとごめん!薫にちゃんと話したいからちょっとだけ先に行って二人にしてよ、頼む」
「「ダメだよ~~」」二人が笑う。「「私たちの前でちゃんと話してあげて」」
…なんか…すごく嬉しいな!
3人に待っていてもらって、急いで用意をして4人で歩き出した。
ヤグチはうちに自転車を置いて行く事にして、4人でバス停に向かったのだ。サクラちゃんとミノリちゃんが私を挟んで歩いて、その後をヤグチがついて来る。
ヤグチは帰りに、うちに自転車を取りに寄るって事だよね?じゃあ今日も一緒に帰るのかな?
いつもの一人の通り道に今朝は4人。
でも確かにいつもの、私が本来いた現実の、当たり前の通り道。朝の光が眩しいけど優しい。
あの真っ暗闇の中に降りて来た光はきっとここからの光だ。
キタはどんな感じになってるのかな…普通に美術の授業をするんだろうか。今までと同じような感じで。
「「あ、」」とサクラちゃんとミノリちゃんが言ってから私と、後ろにいるヤグチを見た。
バス停にツブツブとハヅキモエノがいたのだ。




