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誰の? 3

 「おはよう」

気の抜けた声が聞こえてきて、振り向くと桜井だった。

「みんな早いな」

その後ろの方から無駄に白衣を着た高森もやって来た。

「「おはようございま~~~す」」と答える田代姉妹を見るといつの間にか二人になっている。

 黒いしみなど一つもないいつものオレンジ色のジャージ。

 サクラちゃんとミノリちゃんもオレンジ色のジャージでなく、普通に制服を着ている。

 自分の体に目を落とすと、私も普通に制服。汚れてもいない…と思ったらヤグチに倒されたからスカートの後ろが白くなっていた。

「山根」やたら優しい声と顔で高森が言った。「箱だけ落ちてたんだけど」

それはフクロウが入っていた黒い3センチ四方の箱。

 私は黙って高森に首を振った。



 「ヤグチ」と桜井は面白そうに言う。

ヤグチも顔の傷が消えて、やっぱり私たちと同じように普通に制服姿だ。肩も破れてはいないし、血もにじんではいない。良かった。

 桜井は続ける。全くいつもの飄々とした感じだ。

「ヤグチ、みんなに『使えねぇ』って言われてたぞ」

言われたヤグチが私だけをじっと見つめてくる。

「薫…悪い…ごめん。ほんとに」

「…いいよ、…あの、…サクラちゃんとミノリちゃんが来てくれたから!」

「あ~~~~」と言いながらヤグチがうずくまって両手で顔を押さえた。

 そのうずくまるヤグチの向こうからボロボロの…

 …ハヅキモエノ!?


「薫ちゃん、ごめ~~~~ん」言いながら私に手を振って来る。

ヤバいんじゃないの?髪も滅茶苦茶、綺麗な顔からも血が出てるみたいだし

スカートも破けてスリットが入ってるように見える。その見えている太ももからも血が垂れているように見えるけど…

 が、こちらに近付くにつれてハヅキモエノは普通のハヅキモエノになった。髪もサラサラ、普通の清潔な制服、もちろん太ももも見えてはいないし怪我もしていない。昨日見たのと同じ綺麗な94点のハヅキモエノだ。



 「ごめん、薫ちゃん。ごめんね、ほんとに。私、ちゃんと行きたかったのに薫ちゃんの所に」

「何であんなにボロボロ?大丈夫なの?」

「ありがとう。フクロウが迎えに来てくれたんだけど…なんか…薫ちゃんがいるとこよく覚えてなかったみたいでいろんなとこ連れて行かれて…私超ガタイの良い山姥に捕まってたんだけど!山姥だよ?信じらんない。もんのすごい大きな鍋にワインどぼどぼ入れて、私裸にされて煮られるとこだった。

やっぱダメだね、あのフクロウもっとちゃんと訓練しないと。今もまたどっか行っちゃったし。まぁすごく面白かったからいいけど。ヤグチ君は私が見た時…」

言いかけるとヤグチがうずくまったまま「黙れって」と言った。

「今黙れって言われたけどヤグチ君女の子に囲まれてたよ。体育館の脇のとこで。超ハーレム作ってた」

「作ってねぇわ!バカかお前」



 ハハハ、とハヅキモエノが笑った。「作ってないっていうかヤグチ君は薫ちゃんをずっと探してたら、『山根さんと付き合ってるの?』って女子に詰め寄られてて、『付き合ってるよ』って思い切りクラスの子たちにも言ってたんだけど、その子たち『山根さんより私の方が絶対いい!』とか言ってて、ヤグチ君もみくちゃにされてたから私は先に行っちゃおうと思って。めんどくさいから」

「私が見たときにはな、」と桜井も言い出した。

「止めろ桜井!」ヤグチが唸る。

「今呼び捨てにしたから言うけど」と桜井が笑って続ける。「エダノノカに抱きつかれとったな」

「あ~~もう!」ヤグチが私を見上げて言う。「そういう事も…あったけど!でもオレはそこからはすぐ目を覚ましてお前探してたっつの!…まぁいちばんヤバい時にいてやれなかったけど!お前がオレの事呼んでんの聞こえてたのに、ちゃんと」

「聞こえてたの?」つい聞いてしまった。「ほんとに?」

「聞こえてた。せっかく呼んでくれたのに」


 それからヤグチはミノリちゃんとサクラちゃんに向かって言った。

「ありがとうアライとクリハラ。薫を助けてくれて」

でもミノリちゃんとサクラちゃんは答えずに顔をそむける。

「いや、ほんと!」

ヤグチが二人に言うと、二人は今度は笑って私に言った。

「「薫ちゃん、オオツブライ君選べば良かったのかもよ?」」

「バカかお前ら!今回は失敗したけど!オレは薫の事ほんとに大事に思ってんだって。…ほんとに!」

ヤグチは言って私の手を取った。「もう絶対。次は絶対頑張るから。もう絶対一人にしないから。アライとクリハラがお前助けたのすごく良かったって思ってるけどオレが絶対助けたかったの!…って、あいつなんでここに普通にいんの?」



 ヤグチが言ったのはキタの事だ。

 キタは渡り廊下のコンクリートの床に座り込んでいた。壁にもたれてやっぱりだらしない感じ。

「足田先生がいなくなると、美術の授業が受けられなくなるだろう?」

桜井が言った。「悪い先生じゃないんだよ。ただだらしないだけで。まぁ私は大嫌いなんだがほんとに悪い先生じゃないんだよ。うさんくさいし協調性も全くないけどな」

「ダメだろそれ」それからヤグチは私に聞く。「お前あいつに何されたの?」

「ん~~…」口ごもる私。「…良くわかんない」

ちっ、とヤグチが舌打ちする。

 それに今は少し思うのだ。

 キタにあんな目に遭わされたから、大事な事にも気付けたんだって。



 「だって、」とミノリちゃんが言った。「うちのクラスは全員、選択が美術だし、キ…じゃなくて足田先生がいなくなるとマズいでしょ」

「私好きかも」とサクラちゃんが言った。「前に見た、キ…じゃなくて足田先生の絵。女の人を描いてたの見た事ある私。すごく綺麗な女の人」

キタが顔を上げた。私を見て哀しそうな顔をしてからため息を付く。

 何のため息だよ?サクラちゃんが好きかもって言ってくれてんのに。

 バカだな~キタ、と思ったところで私は急に意識を失った。




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