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誰の? 2

 「仕方ないよ」とミノリちゃんが言うのでさらに心配になる。が、サクラちゃんが続けた。

「連れて帰らないと」

「…連れて帰るの?」

「「だってうちの学校の先生じゃん、こんなヤツでも」」

ホラ!!と二人はキタの腕を揺する。「「自分で立って!!」」

 それでも立たないので二人の代わりに、田代姉妹のうちの二人がキタの腕を掴んで引きずるように穴の縁に連れて来て私たちは輪になった。

 ベタな表現で言いたくないが、キタは捕まえられた未確認生命体みたいだ。


 

 キタも助けるんだな…、と思う。

 私だったらたぶん見捨てる。キタなんていなくていい。

 でもサクラちゃんとミノリちゃんは助けようとしている。私はそれを拒否することは出来ない。だって私を助けに来てくれた大切な二人が助けようって言っているのだ。そんなの拒否できるわけもないし、拒否することで二人に嫌われたくない。でも…


 私は言った。「でもまた誰かの心の中の穴をこの人が大きくしようとしたら?」

「そんなの大丈夫だって」ミノリちゃんが軽く言う。

「薫ちゃんも大丈夫だったでしょ?」とサクラちゃん。

「でも…」と私が言いかけるのを二人が止める。

 ミノリちゃんが言う。「大丈夫大丈夫、みんなきっと誰かに助けられるし、自分でも自分を助けようとするし」

サクラちゃんも言う。「そうだよ。それも無理ならたぶん…その人の心の穴はキタみたいなやつが何もしなくても大きいんだと思うよ」

 私はムラヤマさんが「ありがとう」と言ってくれたその声を思い出していた。



 田代姉妹1、私、田代姉妹2、ミノリちゃん、田代姉妹3、キタ、田代姉妹4、サクラちゃん、田代姉妹5と1が手を繋ぐと穴から、昨日の放課後に見たのと同じ光が穴の真ん中から空、というか暗闇の上の方へ真っ直ぐに伸びていた。

 いやきっとその光は、暗闇の上の方の、ずっとずっと上の方の、きちんと明るい所から伸びて来たのだ。



 光は少しずつ広がってやがて穴全体を、そして私たちを包みながら暗闇を、明るく、明るく、変えていった。



  

    ☆     ☆     ☆     ☆    ☆



 

 私たち9人の輪はやがて穴の縁から離れ宙に浮いていた。

 いや、周りがオレンジ色の光だけで何も見えなくなったから、実際は浮いてないのかもしれないが浮いているような感覚があった。

 私は依然、田代1、田代2と両手を繋いだままなのにいろんなモノや人が私の体の周りを通り過ぎる気配を覚えた。そのモノや人は、私には見えないのだけど、思っている事や感じている事が私に伝わってくる。いろんな嬉しい事、悲しい事、楽しい事、苦しい事…

 私はそれをただ感じる。



 バサッ、バサッと羽音が聞こえた。姿は見えない。

と思ったら、光の中、私の顔擦れ擦れに灰色のフクロウの顔面が!「ぎぃやぁっ!!」叫んだと同時に私たちの作った輪がぐらっと揺れた感じがあった。

 ぐいっと田代1と田代2に手を握りしめられすごく痛い。

「「「「「山根~~変な声出すな~~」」」」」

私の声にフクロウは驚いて一瞬離れたがまたすぐ顔擦れ擦れまで戻って、大きな目で私をじっと見つめながら小首をかしげた。そしてまたバサバサと羽音を立てながら飛んで行ってしまった。

 だって、フクロウが…と小さい声で言い訳をする私。

「「「「「ちっ!」」」」」と5人分の舌打ちが聞こえた。



 微妙な輪の揺れも収まり、またいろいろなモノや人の通り過ぎる感覚…

そしてまた!

 バサッ!バサッ!

 何がしたいんだフクロウ!肝心な時にどこか行っちゃったくせに。

 また擦れ擦れまでフクロウの顔が近付いたが今度は身構えていたので、少し体をこわばらせるだけで済んだ。それでも気付かれて隣の田代1と田代2に舌打ちされる。

 またすぐフクロウの顔が消えたと思ったら、ドン!と体に衝撃があって、そのままぎゅううっと抱きしめられた。

「薫!!」

あ、と思った時にはその衝撃で私の両手は田代姉妹たちの手から離れ

抱きしめられたまま倒れ込んでいた。



 「痛っっ!」

顔を見なくてももちろんわかる。

ヤグチだった。今頃!

「お前…」仰向けに倒れた私の上で上体を起こしたヤグチが「今頃って思ったろ、今」と睨む。

 顔を見なくてもヤグチだと分かったが、ヤグチの顔はかすり傷だらけ、制服も結構ボロボロ、肩が破けてそこから血がにじんでいる。

 ヤグチが手を伸ばし、私を起こしてくれて打った頭を撫でてくれた。そしてもう一度抱きしめられるが私はそれを拒んだ。

 オレンジ色の光が消えていたからだ。みんなが輪を崩して私とヤグチをじっと見ていた。キタも。

 キタはもう黒くはない。ベトベトでもない。

 普通のキタだ。季節外れのコーデュロイのジャケットを着た普通のキタ。

私たちがいるのは渡り廊下だった。昨日の放課後と同じ。



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