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私が山根薫じゃなかったら 4


 私は進む。

 明かりは徐々に、ほんの少しずつ、わかるかわからないかほど少しずつ大きくなってきているようには見える。遠くからは黄緑色のように見えていたがそれはオレンジ色の明かりだった。



 怖くはない。

 いや嘘だ。やっぱりまだとても怖い。全然怖い。前に出す足の1歩1歩がとても怖い。

 そして凄く腹が立っている。

 理不尽過ぎる。

 自分が原因とは思えない不運な目に遭うと、たいていみな理不尽だと思うのだろうが私ももちろんそうだ。

 しかもこんなわけのわからない…

 私の性格が暗いからか。私が大切な事を人にうまく伝えられないからか。

 そして私が2年4組31番山根薫だったからか。


 

 私は暗い。たぶん私が認めている以上に暗い。

 常に他人の事を伺っているわりに、他人から話しかけられたら拒まないのに自分からは決して声をかけないようとはしないし、女子にえげつなく点数を付けているし、サクラちゃんとミノリちゃんがいなかったら本当に一人ぽっちだ。

 嫌いな人も多い。心の中で悪く思っている事もたくさん。

 小学生の時に意地悪をしてきた女子を思い出してしまう時、いまだに心の中では苗字にブスをつけて呼んでいるし、その子に似てるからトリゴエユカの事が嫌いだし。嫌な人はこの世からみんな消えていなくなれ~~といつも思っているし、「バカ」だとか「アホ」だとか「ウンコ」だとか思うし、私には直接関係ない事でも、、誰かを無意味に苦しめたり哀しませたりする人を見ると、「消えろ」とか「同じように苦しめ」とか「死ね!」と思う。

 でもそれの、何が悪いのだろう。心で思うだけなのに。

 私だけじゃなくてみんな思っているはずだ。

 みんな心では思って、でも口には出さないようにして当たり障りなく誰とも諍いを起こさないように生きている、はずだ。

 そうでしょう?



 今度のこの事もミノリちゃんとサクラちゃんが、「ちゃんと喋ってくれない」と私に言ってくれたが、ちゃんと全部は話せない。

 二人がもし小さいころからの親友だとしても話せない事はあると思う。

 だってこんな変な事。誰が信じてくれるんだろう。自分だって信じられないのに。

 ヤグチとかハヅキモエノはまたサクラちゃん達とは違う。あの子たちは変わっているのだ。だから私と一緒にいてくれる。


 サクラちゃんとミノリちゃんがこの事に巻き込まれて、迷惑をかける事も嫌なのだがその前に二人に、私がこんな事に巻き込まれているとバレるのが嫌なのだ。気持ち悪がられたり変なヤツだと思われたくない。

 一緒にいたくないと思われたくない。

 そして二人が私を助けてくれるわけはないとも思っているのだ。

 二人の事が好きだけれど、まだそこまで親しくないのだとずっと一線を引いている。あんな嬉しい電話をもらった後でも、これからもっと深く付き合いたいとは強く思っても、そんな事は無理だろうとも思っているのだ。



 だからだよね?

 こんな私だからずっと好きだったゴトウハルカだって、私の事なんて全然何も気付きもしないでサクラちゃんの事を好きだって。

 ゴトウハルカが例えば、エダノノカとかトリゴエユカみたいな派手で調子のいい女子ではなく、サクラちゃんの事が好きだったのは良かったと思っているけど、それでもやはり私はサクラちゃんにも嫉妬をしているのだ。

 でも、そういう感情を持つ事だって仕方ないんじゃないかな。

 そうでしょう?



 私だけが責められる事じゃない。

 みんなある程度は人を認めずバカにしたり意味なく嫌ったりしてるのに。私より暗くて嫌な心を持っている人なんてたくさんいる。汚い心で他人を苦しめている人はたくさんいるのに!



 私はだんだんと足を速める。速く。だんだん速く。

 意地になって。駆け出す。腹を立てているから。

 私はとんでもなく速く走れる。すごく腹を立てているから。走れるはずだ野良犬のように…


 …のはずだが、どれだけ力を込めて地べたを蹴っても、足が宙を蹴っているような感じなのはどうしたわけだ?前へ前へと思う私の気持ちに反して、

そしてその気持ちをかなえようとする足の努力にも反して、急に自分の身体がとても重たく感じて動きもスローモーションだ。

 …あるよね、夢の中ってこういうの、よくあるよくある。

 ああ本当に、全身の力を使って前へ進もうとしているのに急に身体が嘘のように固まって、思うように動かなくなる。明かりがちっとも近付いて来ない。

 たった今まであんなに普通に動けていたのに。

 こんな時だけやたら夢くさくなりやがって!さらに腹が立つ。

 それならと思って私はやけくそになって叫んだ。

「ヤグチく~~~~~ん!」

叫んだが、叫び声も私の身体の動きのようにいびつだ。

「ヤグチく~~ん!ヤグチぃ~~~~ヤグチカオル~~~~!今すぐ来てぇ!ちゃんと出て来てよぉ~~!」

 次の瞬間、私の目の前には明かりのともった平屋建ての、家とまでは言えないけれど大きめの木造の小屋があった。



 ここで来たか!ここで来るのか『次の瞬間』!

 どうしよう、大きな窓から漏れる灯りはとても明るい。それにちゃんとドアノブの付いたドアもある。

 今すぐ逃げ去ろうか?

 迷う私の顔に、ぽつ、ぽつ、と何かが当たりはじめる。

 …雨?雨も降るの?

 ぽつぽつ、ぽつぽつ、顔に当たる。手のひらで頬を触ってみると、ベタッとしている。

 えっ?…もしかして血とか?


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