私が山根薫じゃなかったら 3
実際桜井の言う通りだと思う。
私は今、自分のこの状況を信じられない。それは夢だと分かっているからなのだが、本当にこれは夢なのか?こんなにリアルな感覚があるのに。
身近な、ほんの些細なごく普通に思われる事だってそうだ。
例えば私に、ヤグチと高森をモデルにBLを書いていると告白してきたスズキナツミにしてもそれが本当かどうかはわからない。
私が知っているいろいろな事、私に関係ある事もない事も全て、嬉しい事楽しい事、哀しい事酷い事、いろいろな事件や事故も災害も、実際起きたと知ってはいても信じられない事はいっぱいある。
私は次々と思い出す。
ごちゃごちゃに現れるいろんな人の言葉。
「目をそらしたら負けるぞ」
「ま、そらさないともっとヤバい目に遭う事もあるけどね」
「毎日普通に生きれてオレは嬉しいなって思う。まぁ嬉しくない時もあるけどな、それはそれでしょうがない」
「そこに存在しているものが、実際目に映ってものいると本当に同じわけじゃないんだよ。わかる?目に見えているものが必ずしもそこにあるものだとも限らない」
「この世の中の事全てがね、面白いかどうかっていうのが一番の重要なポイントだから」
「歴史とかね、傍から見たら面白いかも知れんが、その時その場所にいた普通の人たちにとっては面白くない事ばっかりだよ」
「山根、元の、とかそういうのは、ないんだよ。『時』と言うのはね、過ぎて行くものだから、過ぎ方もまぁいろいろあるんだろうけど、それでも、
まるきり元に戻るなんて事はないんだよ」
「私もそう思うよ。全部が全部夢なんじゃないかってな。それで本当にただの夢だったら良かったのにって事も、この世には嫌と言うほどあるからね」
「深くは考えんでいいよ」
「きちんと現実を見据えなさい」
「そうだな…嫌だなぁと思っちゃうけど最後にはどうにかこうにかやってみようと頑張ってみるかな。だってどうしてもしなきゃいけない事なんでしょ?そういう事を避けて通るとたいていはもっとヤバい事になるからね」
そうだよね、お母さん。
どうにかこうにかやってみようって私は頑張んなくちゃ。だって頑張んないともっとヤバい事になるんでしょう?頑張っても結果的にダメで、しょうがなかった、って感じに、もうだいたいなりそうだなって思っても、それでも頑張った方がいいんでしょう?
…出来ないなぁ…そんな事なかなか私には出来ないな。
「私が守ってあげるから」
「私が薫ちゃんを守ってあげるから」
「オレは消えないから。そいでお前も消えない」
「お前…そう簡単に信じんなよ」
「「構えずに、お前らは普通に普通な感じでやり過ごせ」」
「話して薫ちゃん、全部」
「私の夢と、私の奥さんの夢は、お互いの忘れた部分が繋がっているとは思わないか?」
本当にそうならなぜヤグチもハヅキモエノもここへ出て来てくれない?
あんなに守ってくれるって言ってたのに…
私は1回受け止めたと思った誰かの言葉を、今またここで、どんな風に受け止めよう…
「ヤグチ」小さく口に出して言ってみる。「ヤグチヒカル」
ヤグチは言ってた「オレは自分が見た事はだいたい信じるけど、それでも自分がそうとう嫌だと思うもんまで信じなくていいと思ってる。それは誰かに何かの影響を受けて見させられてるものかもしれないから。見えたものは見えたものと思って、それでもオレは自分が信じたいもんだけ信じる」って。
それなら私もそうする。
そうするよ、ヤグチ。
ヤグチはいないけど、いないヤグチを私は信じる。
ムラヤマさんの妹の名前がヤグチと一緒なのは、偶然であって偶然ではないのだ。
私はこうなるようになっていた。
私は今私を包む真っ暗闇を信じられる。
すごく嫌だけど信じられる。私は今その中にいる。
赤い目のモノを今一つ信じる力は弱いが、それでもあれは私を助けてくれるモンスターだ。ムラヤマさんがそう言ってくれたもん。
そして向こうの明かり。小さい小さい明かり。あれも見える。
私はあそこに行くのだ。だって他に行くところはないから。信じるのだ。私はあそこまでちゃんと、この暗闇の中を一人で歩いて行ける。
ここから出て行くために。




