私が山根薫じゃなかったら 2
「「あっ…」」と私たちは同時に声をもらした。
私たちの進んでる前方、他に比べるものがない真っ暗闇だから距離感がよくわからないが、先の、もうずっと先の方だと思えるくらいの離れた場所に
小さな小さな明かりが見えたのだ。
ほっとする私。でもムラヤマさんが言った。
「ごめん、山根さん」
声が哀しそうな、うれしそうな変な声だ。笑っているような泣いているような。
「どうしたの?」
「今飛んできた。ピンク色の小鳥。妹がいる!」
どこに!私にはそんなの見えない。
「私、妹を探してここから出なきゃ!ごめん、山根さん!」
ムラヤマさんが私の手を、バッと離してしまって私は焦る。
「え?え?ムラヤマさんっ!やだ…」
離された私の手が宙を掴む。
「ごめん、山根さん。私行かなきゃ。ごめん」
ムラヤマさんの声が私の頭の上の方でする。
え?え?飛んでるの?ムラヤマさん!
「ムラヤマさんっっ!!」
私一人残される!嫌だ!
「ごめん…ありがとう山根さん。黙って聞いてくれてすごく、すごく嬉しかったよ」
ムラヤマさんの声がどんどん頭の上の方へ小さくなっていく。
「ムラヤマさんお願い!!どこかでヤグチを見かけたら私の事を教えて!」
「ヤグチ君?わかった!山根さん、私の妹の名前はヒカル。絶対私がヤグチ君に伝えてあげる!」
ヒカル…ヤグチと同じ名前…
しん、と辺りが静まりかえる。ムラヤマさんは行ってしまった。
私は赤い目を確かめる。
やっぱりいる。
そしてムラヤマさんと見つけた小さな明かりもまだ見える。どうしよう…と思ってもう一度赤い目を見ると赤い目がふらっと揺れた。
もしかして心配してくれてんの?
心配なんてしなくていいから、私を助けてよ。この夢から私も目覚めさせて。
ムラヤマさんがここから目覚められた事を私はきっと喜ぶべきなのだろうが、全く素直に喜べないのは当然だ。
こんな所で一人は絶対に嫌。私の事も一緒に連れていって欲しかった。
なんでかな。なんで目が覚めないかな…
…ヒカル…ムラヤマさんの妹の名前がヤグチと同じ名前なのは、私にとって何かの救いなんじゃないかな…救いであって欲しいからそう思う。肝心のヤグチは現れないけど、結構すごい偶然のような気がするし。
何か…ちょっとベタで恥ずかしいけど光が見えたような気がする。
っていうか明かりは見えてるんだけどな。
一人になった今、あそこの遠い明かりまで行くのはもちろん怖い。
…偶然か…偶然はどうの、って誰か言ってたな。
なんだっけ?桜井が言ってんだっけ?偶然に思える事でもそれは偶然じゃないんだって言うような事。本当に誰かに実際言われたっけ?そんな事?
もしもはない、って言われたのは覚えてる。
私が私じゃなかったら状況は変わっていたのかと桜井に聞いた時だ。桜井が言った。もしもはただのもしもで現実じゃない。なぜなら私は2年4組31番山根薫以外の何モノでもないからって。
でもこうも言われた。この世の中のたいがいのことはどうでもいい事なんだって。全ては運だからって。そして運だと思えないような誰かに仕向けられてそうなった事でも、その仕向けれた事がすでに運なんだとも言ってた。
私は私に言われたいろいろな事を次々に思い出す。
私だけに言われたわけじゃないけど、田代姉妹が保健体育の時間に体育館で交替に喋っていた事。身体で感じた事は心の奥までなかなか届かないから、大事な事に気付いても、それが何の役にも立たない事もたくさんあるって。
後になって物事の伏線に気付いても、気付いていないものもたくさんあるんだっていうような事。あぁしとけばきっとこうなったのにとか、出来なかった事をくよくよ悩むような事がこの先あっても、それはもうどうしようもない事なんだ、と思って先に進めって言ってたな。
それから起こった事はもう起こった事で、何かが出来なかったのは、その時どうやったったってできなかったわけだから自分に高望はするなって。それで最終的にいろんな事は難しいし、しょうがない事はこの世にはたくさんあるって。
あの時、田代姉妹すごい事言うな~と思って感心して聞いてた。本当にそうだなと心から思った。けれどおおまかな所は桜井が言ってることと同じように感じる。
こういう事だ。『しょうがない事はたくさんある』
世界史の時間に桜井は言った。
世界史を教えながら、本当の本当はどれだけ事実なのかって思ってるって。歴史上の重要な事件が本当の本当はどんな理由で、どんな風に起こったかっていう事は本当のところわからないって。だから何も信じていないし、
桜井は自分の目で見た事しか信じないって言ったのだ。そして自分の目でちゃんと見た事も、信じられない事はたくさんあるんだって。




