入口 3
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私はたぶんすごいバカなんだと思う。
夢にサクラちゃんが出てきたような気がする。
ミノリちゃんも出てきたような気がする。
…わからない。
たぶん高森のお茶がものすごく利いて、私がいかに意識をすんなり失ったかと言っても、まるで何も覚えていないなんて…
朝起きたら頭がすっきりしていた。
こんなにぐっすり眠れた事なんて本当に久しぶりだ。去年の学校の創立記念の行事で登山をした夜以来。
どうしよう…ヤグチとハヅキモエノになんて言おう。
そんな心配はあるのに、ぐっすり眠れたからか朝から食欲もあって、いつもの倍くらいの朝ごはんを食べて、着替えている所にドアチャイムが鳴った。
いつまでもドアチャイムが鳴る。
お母さんいないのかな。どうしたんだろう。ゴミでも出しに行ったんだろうか。
制服のボタンをかけながらドアを開けるとツブツブだった。
「おはよ」
「…おはよう」
「メールか電話しようかと思ったんだけど、また見てくれないといけないと思って、ごめん。迎えに来ちゃったんだけど…」
「あら?誰か来たの?」とお母さんの声だ。
「えと…同じクラスの…」
「ふうん?」と言って顔を出したお母さんが瞬時に微笑む。「きゃ~、男の子じゃない。あんたに男の子のお迎えがあるなんて」
「おはようございます」とツブツブが行儀よく挨拶をする。「オオツブライユウリです」
「え?」
「同じクラスのオオツブライといいます」
「え?オオツブ?」
「はい。オオツブライです」
「珍しい名前ね~」
そう言ったお母さんにニッコリと愛想よくツブツブが笑う。
「面倒くさいんで薫ちゃんにはユウリって名前で呼んでもらってます」
続けてそう言ったツブツブを凝視してしまう私だ。
「え?」と言ってまじまじと私を見るお母さん。
いや…言いたいことはわかるけどお母さん。
私、ヤグチともツブツブともまだ別に、そんなにアレなんで。
…あれ…?
私さっきはヤグチに迎えに来てもらって…
「行こ」とツブツブが優しく笑う。「学校。用意できた?」
お母さんを見ると、お母さんの目は怪訝なまま。
そうか、これは夢なんだ。
ヤグチが迎えに来てくれた夢を見て、バスに乗った所でその夢は終わって
また別の夢を見ている。今度はヤグチでなくツブツブが迎えに来てくれた夢を。
どうしたらいいんだろう…
夕べ10番のコンドウ君の顔を思い浮かべてたら、よくコンドウ君の隣にいるツブツブの顔も一緒に浮かんできてたからかな。
どうしたらいいんだろう!私はこのまま学校へ行けばいいのか?
それともツブツブは断わって、ヤグチが来てくれるのを待てばいいのか…
…そうか!
ヤグチは、『オレが出てこなかったら目を覚ませ』って言ってくれてた。
目を覚ませ私、目を覚ませ私!!
あれ…
何で目を覚まさないまま私は、もうバスに乗ろうとしてるんだろう。
もしかして、コンドウ君の事をツブツブからいろいろ聞き出したりしたらいいのかな。
…でもダメだ。ヤグチがいなかったら…
「ツブツブ!」言った私にツブツブが驚いている。
「ごめん、違った。ユウリ君。私、一緒に学校に行けない」
「オレの事ツブツブって呼んでんの?」
「ごめん、私、一緒に学校に行けない」
「薫ちゃん、オレの事ツブツブって…」
どうだっていいじゃんそんな事!
私はバスの乗り口から身をひるがえして目を覚まそうとする。
飛んじゃえ、飛んだらきっと目を覚ませる…
でも私は目を覚まさないままバスの席に座っていて、次の瞬間2年4組の教室にいた。
黒板に白チョークで大きく書いてある。
「1、2時間目は美術に変更になりました」
教室にいた3,4人は全員後ろ姿でもう教室から出て行ってしまう所だ。一緒にバスで来たはずのツブツブもいない。
美術に変更なんて、私ヤバいんじゃないの?だって美術の用意なんてしてきてない。他のクラスに今から教科書借りに行くなんて無理そう。美術なんてどこのクラスも週1しかないし、それに今もうチャイムが鳴っている。
それに第一…美術室に行きたくない。
キタを見たくないのだ。
そうそう!私はキタを見たくない。美術室に行きたくないのだ。
まずそう考えなくちゃ!
美術の用意が出来てるかどうかなんてまるでどうでも良いのに、何でそんなバカな心配してるんだろう。
そうか!夢だコレ。
でもヤグチもハヅキモエノもいない。目を覚まさなきゃ!
と思うのに私は、美術室の自分がいつも使う机に付いていた。
何か…夢ってそんな感じだよね、いつも。
ソコ行っちゃいけないって思ってるのにいつの間にか行ってたり、食べちゃいけないもの食べようとしたり…
みんな教室からいなくなっていたのに、今美術室にも誰もいない。
みんなどこに行ってるんだろう。
キタもいないのだ。
怖い。ものすごく怖いのに椅子に腰かけたまま私の脚は全く動かない。
そしてキタが隣の美術準備室にいるような気配を感じ始めた。




