↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
100/130

私たちのやる気 2

 何をどう頑張ればいいかもわからないまま、自転車を押すヤグチと歩き出す。

「乗れって、後ろ」

「いいよ、バスで帰れるよ」

「一人で帰るの怖くねぇの?」

「…今日は…ちょっと怖いけど」

 ヤグチが自転車を止めて「乗れって」ともう一度言った。



 横乗りをするが大変乗り心地が悪い。

 どこをつかんでいいかわからないからだ。

 ヤグチの制服のズボンのベルトを握ってしまうと「それ気持ち悪い」とヤグチに言われるが離せない。

 ヤグチがハンドルから片手をはずして、ベルトを掴んでいた私の手を取り自分のお腹に回した。

 「もう片方もやって」と言われるが、すごく恥ずかしい。

「ホラ早くって。ちょっと速く漕ぐから」

言われたとおりにするが本当に恥ずかしい。横乗りで両手をヤグチのお腹に回すと、私の頬がヤグチの背中に付いてしまう。

「あの…すごい恥ずかしいんだけど」

ハハ、とヤグチが笑った。「もうチュウも2回したのに」

 …2回…2回!!

「お前まさか本当に気付いてなかったの?」



 世界史の前の休み時間の廊下のアレだ。

 事故かと思ってたのに。そして何も言わないからヤグチも気付いてなかったのかと思ってたのに。

 やっぱり唇当たってたよね?それって故意に当てられてたって事だよね?

「…なんで…」と口をついて出る。

「なんで、何?」

「…」

「黙るなよ、恥ずかしいじゃん」

 

 怒った方がいいのかな。でも怒れない。

 今日はほぼずっと私を助けてくれていた。ほっぺたにチュウされた時にも別に嫌じゃなかった。

 そして今も本当はとても感謝している。一緒に帰ってくれて。今私を一人にしないでいてくれて。

 全く現実味のわかない現実。

 キタは直接には私に何もして来なくても、私のあの暗闇を広げさせているのがキタだとしたら、私はキタを許せないし、とても怖いと思う。

 例え夢の中でも戦えなさそうだ。



 そのまま結構な速さで自転車を漕ぎながらヤグチは言った。

「約束通り寄ってくから。お前のんとこ」

「え?」

「え?じゃねえよ、いろいろ計画立てるんだよ」

「さっき立てたじゃん3人で」

「もう一回二人でいろいろ考えるの!バカじゃねえのお前」

  え~~。

 ヤグチが躊躇するかと思って言ってみる。

「でも今日はお母さんいるよ。仕事休みだから」

「いいよ別に。何お前、二人きりの方がいいの?」

「違うよ!」

「大丈夫だって、オレこんな感じでもちゃんと挨拶とかできるんだって」

「お母さん、びっくりしそうな気がする。女の子の友達もあんま家に来てもらってないし」

「アライやクリハラは?」

「ん~~…来てもらった事もあるんだけど…あの二人は元々中学が一緒ですっごく仲良くて、でも私がほら、独りぼっちだといけないと思って声かけてくれて。だから何か、私は二人の事が大好きなんだけど、二人は二人の方が本当はいいんじゃないかな、とか思ったら何か、ね…」

「お前はホントにそんな感じだよな」



 そうなのだ。私はサクラちゃんとミノリちゃんが大好きだから、二人がもし二人で何かしたいと思ったら絶対に邪魔はしたくないと思う。学校で仲良くしてくれて、本当に嬉しいと思ってるから。

 そして本当は二人きりの方がいいんじゃないのかなってやっぱり思ってしまう。いつも私、もしかしたら邪魔なんじゃないかなって。」

「だからあんま、私からは誘った事がないの」

「お前っていつもそんな感じだよな」ヤグチが繰り返す。

「うん…ダメだなぁって思うよ、自分でも」

「ダメじゃねぇと思うよ。もう少し何とかしていけばいいだけで」

意外に中途半端に肯定されて少し驚く。「ありがとう」

 今こうやって一緒にいて、普通に話してくれるヤグチがいるから、私は「ここ」を現実だと感じられている。


 

 「オレと映画行く?」

「え?」

「映画行ったり、音楽聞いたり、いろいろ出かけたり」

「…」

「え、嫌なの!お前信じらんねぇな…あんな状況でずっと一緒だったら、何かこう、わくもんあるだろ気持ち的に」

 嫌じゃないけど…

「ねぇの?」返事が出来ない私に言う。「マジか…オレ結構今日がんばったのに。しかもチュウまでしたのに…オレ結構女子に人気あるのに」

 だからそういうのがちょっと嫌なんだよね。

 嫌っていうか、そういう人に誘われるのは落ち着かない。

「ヤグチ君すごいモテてたよね、中学の時も。クラスの違う、友達少ない私だって噂聞いてたよ」

「…。それでどうすんの?オオツブの事」

「…ヤグチ君さ、女子とメールとかしてる?ラインとか」

「オオツブとハヅキの事が気になってんの?」

そりゃあ気になるよ。

そしてヤグチが女子とメールしてるかも気になる。

「…女子としてるの?」

「気になんの?何か嬉しいけど」

ヤグチの背中に当たった頬が赤くなる。

「たまにむかし交換した女子からも来るけど、オレがあんま返事返さないから。なぁオレも嫌なんだけど、お前がオオツブとメールすんの」

ぼわっとさらに頬が赤くなるのがわかる。

 今日これからヤグチは本当にうちに寄るのかな。



 そしてヤグチは今、うちのお母さんに挨拶をしている。

 お母さんの顔がやけににこやかだ。

 私たちは学校で終わらなかった委員会の仕事を、急きょうちでやる事になったと嘘を付いた。まぁまぁの嘘だけど、そこまで嘘じゃない。

 私の部屋にヤグチを入れるのは気が進まないが仕方がない。リビングで誰かの夢に出る話なんて出来ないから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。