私たちのやる気 1
私たちは電話番号とメアドを交換する。
ハヅキモエノが言う。「うちのクラス女子でガラケーって私と薫ちゃんだけだよね」
ハヅキモエノもなのか。私だけだと思ってた。もしかしたら学年でも二人きりかもしれない。親近感がわく。
「私、面白くないメールとかにはほぼ返さないでいたら、誰からもメール来なくなってケイタイほぼいらないの。もともと友達も少ないから。今メールしてんのユウリだけ」
ツブツブとメールしてるんだ!そうかそうなのか…
ツブツブはお姉ちゃんとメールしてるって言ってたけど…
え?お姉ちゃんてもしかしてハヅキモエノの事をぼかして言ってるんじゃないよね?
厭だな、それだったらものすごく厭だ感じだ。沸いた親近感がぎゅっとしぼんだ。
どんなやり取りしてるんだろう。滅茶苦茶気になる。
が、交換する時にメールが来ている事に気付いて、見るとツブツブだった。このタイミングで開けてしまうとは。
メールは「今どこ?いっしょに帰れなくて残念。またバスに乗る時誘ってもいい?」
時間を見ると、たぶんそれは私がヤグチと迷宮と化した校舎を走り回っていたころだ。
即座にメールをハヅキモエノに覗き込まれる。
「おお~~」と冷やかすようにハヅキモエノが笑って見る。
おお~~とか言って自分もツブツブとメールしてるくせに。
なんかもう返事を送る気になれないかも。が、ヤグチが私を睨んでいる。
「どうすんの?お前」
「…何が?」
「何がじゃねぇよ。オオツブと付き合うの?」
「…」
付き合えないよ。
こんな事に巻き込まれなかったら、少しずつ仲良くなっていけたかもしれないけれど、そもそもこんな事に巻き込まれたから、あの放課後の階段の下にツブツブがいたのだろうとは思うけど。
でもそんな事をヤグチに答えるのは嫌だ。
それにツブツブがハヅキモエノと付き合っていたという事が相当気にかかっている。
今でもメールもし合ってるのに。
「私がそれとなく話してあげようか?」ハヅキモエノが言う。
「何か薫ちゃんはヤグチ君と付き合うかもって」
いや、そんな事決めてないし、それに何でハヅキモエノが口を出す。
立場的に元カノになんて一番口出されたくないよ。
「じゃあオレが言うわ」とヤグチも言う。
何をどういう風に言うつもりだよ?
どっちにしろ今は返信を送れない。私はとりあえずケイタイをしまいツブツブへの返事は先送りだ。
そして肝心の夢の話を始める。
話しながらもまだ私は胡散臭いと思っている。今日体験したさまざまなあり得ない事がだ。今でも到底信じられない。
全てが全て、まさしくこれが夢の中なのかも…
その全てを踏まえた上で私たち3人が他の人の夢に一緒に出て、その人を助けるなんてとても信じられない。
「つまりあの、双子がいる3人の夢の中に出たらいいって事でしょ?」
ハヅキモエノが簡単に言うが、だからそんな事、どうやったら出来ると思ってるんだ。
「待ち合わせ場所、どこにする」
ハヅキモエノが私とヤグチに聞いた。
夢の中でのって事か?すごい順応力だな。
「ハヅキ、」とヤグチが言った。「お前、無理しなくてもいいんじゃね?」
ふん?と私もハヅキモエノもクエスチョンマークだ。
1拍あって「きゃあああああ!」とハヅキモエノが叫ぶので、私はビクリとする。
「そうか!二人でやりたいんだね?ヤグチ君!私が邪魔って事か。嫌だな~ヤグチ君は独り占めしたいんだね、薫ちゃんの事。気持ちはわかるけどさ、
私だって薫ちゃんに選んでもらったから、私だって薫ちゃんを守るよ。すんごい重要な任務だよね?ユウリに教えたら睨まれそう。誰にも言わないけど。ねぇ?」
ハヅキモエノはそう言って私に笑いかける。
何で私が守られる設定かは置いといて、ハヅキモエノは楽しんでるとしか思えない。それでも巻き込んでしまった事を悪いなと思うけれど、でもこれは運命なのだ。私たちの持っている私たちの運命。
そう思わないとやっていけない。でも…
「でもそんなにうまく夢で3人会えるとか、私はやっぱり信じられないよ。あり得ない。あの3人の夢に出るって言うのだって…」
本気で荒唐無稽な話だ。
「まぁな」とヤグチが言ってくれる。
「できるって」ハヅキモエノが目をキラキラさせながら言った。「できるよ、絶対」
何を根拠に言ってるんだハヅキモエノ。
「でも何もわかんないんだよ?方法も」私は言う。
「大丈夫」とハヅキモエノは笑った。「私すごく感じたんだよ。世界史の授業の前に薫ちゃんが廊下で急に消えた時、私、薫ちゃんを守ってあげなくちゃって思ったしこの人は私とこの先関わっていく人なんだなって感じたんだよ。何か、ユウリには悪いけどね。ユウリはただ普通に薫ちゃんと付き合いたいって思ってるんだろうね。映画行ったりさ、部屋で一緒に音楽聴いたりDVD見たり、勉強したり…私もそういう事薫ちゃんとしたいけど、付き合ってくれる?」
ヤグチがムッとしている。「オレと行くから」
「へ?」とハヅキモエノがきょとんとして言った。
「映画とかだよ!薫はオレと一緒に行く事になってんの」
なってないよ!
ハハハ、とハヅキモエノが笑う。
具体的な案は全く出ないままハヅキモエノの家の前だ。
私たちの稚拙な計画はこうだった。
眠っているうちのどの時間帯に夢を見れるかわからないが、とにかく同じ時刻に眠れるようにしてみよう。とりあえず今夜はそれを11時に設定する。10分前に高森に渡された呪われたお茶を呑み、そして眠る。
ただひたすら2年4組10番のコンドウハルトの事を考えながら眠る。
別れ際に家の前でハヅキモエノが私に言った。
「薫ちゃん、嫌じゃなかったら今度うちに遊びに来て?」
正直、ものすごく嬉しかった。「ありがとう」
「あっ!!」近所中に響き渡るような声でハヅキモエノが言う。「一緒に眠ればいいんじゃないの?そしたらすぐに同じ夢見られるかも。泊まりにおいでよ薫ちゃん」
「…ありがとう」そうか。そうかもしれないな。
「もう今日泊まっちゃえばいいじゃん」
「オレはどうすんだよ」とヤグチが言う。
「そっか。ヤグチ君男だもんね~。残念残念。ん~~じゃあ、私と薫ちゃんでがんばるよ。ヤグチ君は別に休んでも大丈夫なんじゃないかな」
「お前、オレを邪魔だと思ってんな」
ヤグチとハヅキモエノは睨み合い、にらめっこに負けたヤグチが舌打ちをした。
「帰るぞ薫」
「え…」
「何かあっても連絡なら帰ってからでもいいじゃん。ホラ、後ろに乗れって。じゃあな、ハヅキ」
ハヅキモエノは笑っている。
「なんか…」とヤグチはハヅキモエノに言った。「お前の事、何か嫌い」
ハハハ、とハヅキモエノが笑った。「じゃあね、薫ちゃん。頑張ろうね!」




