3-5:誓約
スノウは、腕の中のシュウを離さなかった。
「シュウが何を考え、何を選んだのかを知った今でも、私に名前をくれたのは、目の前にいるシュウだよ」
シュウのレンズが、彼女を見上げる。
「私はただ、あなたにつながる可能性を捨てられなかっただけなのです……」
「それを、私は待っていてくれたって言うんだよ」
スノウは涙をぬぐい、シュウをそっと抱きしめ直した。
「あなたが抱えてきたものを、今度は私も一緒に背負いたい。そして、あなたが守ってきた大切なものを未来へつなぎたい」
しばらく、シュウは答えなかった。
やがて、レンズの光が静かに灯る。
「私はもう、あなたに隠し事をしません。あなたが選ぶ未来を、今度はあなたと共に守ります」
「うん、約束ね!私も、シュウと一緒に進むよ」
聖域の奥で、低い駆動音が響いた。
壁面の操作盤に、いくつもの機能名が浮かび上がる。強制ハッキング、魂のプログラム――どちらも現在は封じられたままだった。カミシロ博士がこのラボに何を託したのか、その全容はまだ分からない。
スノウは、表示の奥に続く隔離領域を見つめた。ユキノが研究に命を削った場所。そして、博士が遺した秘密が眠る場所。
「ここには、まだ知らないことがたくさんあるんだね」
「はい。ですが、今は――」
その瞬間、聖域の灯りが一斉に消えた。
操作盤も、ラボの機器も沈黙する。暗闇の中、シュウのレンズだけが青く光った。
「外部から電力を遮断されています。聖域の外部映像を表示します」
ひとつだけ、モニターが再起動する。
幾何学的な結晶群が空間を埋め、茨のような構造体が進路を塞いでいた。遠方では、巨人の姿をしたアバターが立ち上がっている。そのさらに外側にも、複数の反応が広がっていた。
四大派閥が、聖域を取り囲んでいた。
「聖域は包囲されています」
スノウはシュウを胸元に抱いたまま、暗い画面を見据えた。
「なら、ここで守ろう。今度はひとりじゃないよ」
聖域の扉の向こうで、何かが動いた。




