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第9話 次のページを、読んでください

 裁判は、ひと月続いた。


 鐘楼から運び出された帳簿には、総監が管理していた公金の行方が記されていた。

 王弟の名を使って他国へ送った金は、王太子が手勢を集めるためのものだった。

 送金先にも確認が取れた。

 押収した書状と、総監の部下たちの証言が、その経路をつないだ。


 宝珠は、王太子の準備室で取り替えられていた。

 ユーゴは、そこを見てしまった。

 姉を言いなりにさせるため、捕らえられた。


 私が選ばれた理由は、王太子の婚約者だったから。

 私の家は、王弟の進める財務の調査に協力していた。

 婚約を解消し、毒殺未遂の疑いで家ごと調査を止めさせる。

 そのあと、監察官を消し、偽の証拠で王弟を告発する。


 死ぬ人を二人、間違った場所へ置けば、王太子は英雄になる。

 そういう筋書きだった。


 私は、証人として出廷した。

 未来を書いた紙は、犯人を有罪にする証拠にはされなかった。

 その紙から何を調べ、何を見つけたか。

 裁判で扱われたのは、確認した事実だった。


 王太子は、最後まで、モーリスのしたことだと言った。


「私は、仕立屋の所在など知らなかった。ユーゴがそこにいたことも、聞いていない」


 提出された資料の束が、開かれた。

 そこには殿下の供述と、鐘楼で押収した指示書の写しが並んでいた。


 指示書には、少年を北門の仕立屋へ移すようにと書かれていた。

 殿下の署名。

 その署名を依頼され、運んだ侍従の証言もあった。


 私は、王太子を見た。


「殿下。その証言は、次のページと矛盾しています」


 殿下の顔が、赤くなった。


「君は、私を憎んでいるから」

「私は、あなたに殺されかけました。でも、ここにある署名は、私の気持ちとは関係ありません」


 昔は、彼の顔色を見て、言葉を選んだ。

 笑ってもらえる言い方を探した。

 今は、読み飛ばしてほしくないページを、指した。


 署名は、複数の書状と照合された。

 証人も、別々に話を聞かれた。

 私が一言で、勝ったのではなかった。

 人が調べ、運び、記録したものが、ここへ届いていた。


 オスカーは継承権を失い、総監とともに拘禁された。

 公金の横領、虚偽の証拠の作成、監察官と証人の殺害を企てた責任を負う。

 私との婚約も、正式に解消された。


 私の毒殺未遂の嫌疑は、晴れた。

 王家からは、偽の神器を審問に持ち込ませたことと、私の名誉を損ねたことについて、謝罪があった。


 リネットは、脅迫された経緯と捜査への協力を考慮され、厳重な戒告を受けた。

 虚偽の証言をした事実は、消えなかった。

 本人が撤回し、理由を話したことも、記録された。


 裁判が終わったあと、私は彼女と会った。


「ごめんなさい」


 彼女はそう言った。

 私は、すぐに、大丈夫とは答えなかった。


「怖かったです。あなたが青い宝珠の前で証言したとき」


 リネットは、うなずいた。


「でも、あとで、本当の話をしてくれたことには、お礼を言います」


 私は、一度、息を吸った。


「私も、あなたに、出自を馬鹿にすることを言いました。以前、王宮で。あれは、私が言いました。ごめんなさい」


 彼女は、驚いた顔をした。

 それから、少し泣いた。


 私の罪ではないことと、私がしてしまったこと。

 どちらも、この世界で生きた私の話だった。


 *


 監察局を出る日、父が迎えに来た。

 領地から戻り、裁判の間も、家の資料を提出してくれていた。

 私は、顔を見た途端、抱きついた。


「帰ろう」


 父は、それだけ言った。


 ロアンは、玄関まで見送りに来た。

 肩の傷は、まだ完全には治っていない。

 でも、自分で歩き、自分で、私へ頭を下げた。


「協力に感謝する」

「こちらこそ」


 私は、彼の目を見た。

 紙には、ここで別れる予定しか書けない気がした。


 彼が、一歩近づいた。


「捜査は、終わった。君をここへ呼ぶ理由も、なくなった」


 私は、うなずいた。

 胸が、少し痛かった。


「だから、仕事とは別に、聞きたい」


 彼は、父をちらりと見た。

 父は、少し離れて、馬車の方を向いた。


「次の休みに、一緒に出かけてくれないか」


 私は、返事を考えた。

 いちばん良い台詞を探した。

 結局、短い言葉になった。


「はい。会いたいです」


 ロアンは、笑った。

 今まで見た中で、いちばん、顔全体で笑った。


「私もだ」


 その声は、前世で聞いたどの台詞とも、違っていた。

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