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第8話 その一行を、終わりにしない

 鐘楼への捜索は、朝、始まった。

 私は監察局に残った。

 役に立つためなら現場へ行くべきだ、と一瞬、思った。

 でも、剣も魔法も使えない私を守る人が必要になる。


 ここで、問い合わせに答えられるように待つ。

 それが今日の役割だった。


 昼過ぎ、使いが来た。

 原本と思われる帳面を見つけた。

 総監の印章つきの書状も、何通も。

 運び出しを始める。


 私は、机に額をつけた。

 まだ、全部終わってはいない。

 それでも、紙が運び出されるまで、誰も死んでいない。


 夕方、別の知らせが来た。

 倉庫で、魔術の仕掛けが見つかった。

 鐘楼と倉庫をつなぐ回廊にも、同じ管が通っていた。

 動かないよう封じ、専門の術師が取り外している。


 私は、図を見た。

 銀色の管。

 脚本では、左の通路にだけあった。


 書かれていない部分を、彼らは調べている。

 私には、できなかったことだ。


 窓の向こうが赤くなった。

 そろそろ、戻るはずだった。


 鐘が鳴った。


 一つ。

 二つ。


 私は、顔を上げた。

 鐘楼の鐘は、修理中で鳴らないはずだった。

 図にある鐘。

 頭の中に、別の台詞が戻った。


『時を告げる音とともに、すべては灰になる。』


 台本の、場面転換の一行。

 私は、音楽と演出の指定だと思っていた。


 警備の人を呼んだ。


「鐘が合図かもしれません。回廊の管だけではなく、鐘のところも調べてほしいと、伝えてください」


 彼はすぐ、伝声石を取り、現場へ伝えた。私の声を、そのまま届けてもらった。

 私も階段を降り、窓から街を見る。

 ここからでは、鐘楼は見えない。


 待つ時間が、長かった。


 遠くで、音がした。

 重いものが、崩れる音。

 窓のガラスが、かすかに震えた。


 私は、椅子へ座った。

 立っていられなかった。


 監察局の人が、そばへ来た。

 何か尋ねられ、うなずいた。

 何を聞かれたか、覚えていない。


 脚本を、何度も読んだ。

 死ぬ場面は知っていた。

 ここで待つ側の気持ちは、知らなかった。


 私は新しい紙へ、彼の名前を書いた。

 その先が、書けない。


 やがて、玄関が騒がしくなった。

 運ばれてくる人。泥のついた靴。急いで呼ばれる医師。


 私は、立ち上がった。


 マルタさんが、私を見た。

 顔に煤がついている。


「最後の合図が、間に合った」


 声が、かすれていた。


「管を止めても、鐘の上に別の仕掛けがあった。鐘を鳴らした男を押さえて、全員を下へ出した」


 私は、彼女の後ろを見た。


 ロアンが歩いていた。

 肩を借りていたが、自分で、歩いていた。


 私は、近づいた。

 名前を呼ぼうとして、声が出なかった。


 彼が、私を見つけた。


「戻った」


 私は、うなずいた。

 涙で、顔がよく見えない。


「今度は、医師のところへ行く。先に伝えておく」


 私は、笑ったのか、泣いたのか、わからなくなった。

 彼は、少しだけ、手を差し出した。

 私は、その手を両手で握った。


 生きている。

 紙の上の訂正ではなく、指が温かかった。


「行ってください。治療へ」


 彼はうなずいた。

 手を離すまで、私の方を見ていた。


 部屋へ戻ってから、私は、新しい紙の続きを書いた。


 ロアン、帰還。


 その下には、まだ、何も書かなかった。

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