第7話 犯人に、最後まで演じてもらう
ユーゴが渡された証拠は、偽物だった。
北門の仕立屋で、少年と一緒に確保した革袋。
中に入っていたのは、王弟フレデリク殿下の名前が並ぶ取引帳だった。
国庫から金を抜き、他国の傭兵隊へ送っている。
宝珠も、その資金を得るために売った。
そう読める内容だった。
しかし、取引の一つに、既に閉じた商会の印があった。
記された日には、その商会は営業していない。
取引先に別々に確認すると、金額も日付も合わなかった。
「何枚も書き足したと、聞きました」
ユーゴが、話した。
姉の隣に座り、ひざに手を置いている。
「王太子殿下と、総監様が。あの帳面を私が持って、監察官に渡せば、姉を帰すって」
マルタさんが尋ねた。
「本当の帳面も、見たのか」
彼はうなずいた。
「総監様が、別の袋へ入れました。全部、鐘楼の部屋へ運ぶように、と。私は、その前に捕まりました」
倉庫ではない。
隣に立つ、鐘楼そのもの。
私が書いた場面のすぐ横に、調べていない部屋があった。
王太子と総監には、既に、国王の命で外出と連絡の制限がかかっていた。
ただ、黙秘したまま、部下が証拠を消す時間を稼いでいた。
鐘楼は、総監の管理する古い庁舎の一つ。
帳簿を押さえるため、捜索の許可が出た。
私は、紙へ覚えている風景を描いた。
鐘楼の上には、赤い窓。
ゲームでは、夕日が入る背景に使った。
その部屋から、倉庫の回廊へ橋が架かっている。
「部屋の中は?」
「描いていません。知りません」
ロアンがうなずいた。
「外の構造は、役に立つ。だが、確かめて進む」
出発は翌朝。
先に周辺へ人員を置き、逃げ道と、資料の搬出口を押さえる。
彼は、私が怯えないよう、何をするのか説明してくれた。
急ぎの連絡には、伝声石を使う。遠くの石へ声を届ける軍用の道具で、局にいる警備の人も一つ持つ。伝えたいことがあれば、その人へ話すように言われた。
翌日は、原作で彼が死ぬ日だった。
夜まで待たない。
それでも、私は眠れなかった。
夜更け、総監の使いが来た。
差し出された封書は、監察局の中で開かれた。
『本当の黒幕は、王弟殿下です。明夜、倉庫へ来れば、証人と証拠を引き渡します。』
私の覚えている話へ、戻そうとしている。
ロアンは封書を置いた。
「誰が渡したか、使いから確認する。今夜、余計なことを知らせるな」
私は彼を見た。
「行かないんですね」
「夜に、あちらが選んだ場所へ行く理由はない」
彼は、倉庫の図を指した。
「だが、この手紙には、まだ、私が罠を知らないと思っている様子がある」
マルタさんが、少し笑った。
「演じますか」
ロアンはうなずいた。
「最後まで、支度をしてもらう。その間に、隣の部屋を押さえる」
台本は、未来を保証する紙ではなくなった。
誰かが私たちに、そう動いてほしいと思っている、予定表になった。
私は、新しい図を渡した。
赤い窓と、橋。
描かなかった部屋には、空白を残す。
「どうか、生きて帰ってください」
ロアンは図を受け取った。
「その予定で動く」
軽い返事なのに、目は真剣だった。
私は、彼が立ち去るまで、その目を見ていた。




