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第6話 見せ場のために、死なないでください

「君が私を、死ぬ役にしたのか」


 翌朝、ロアンはそう尋ねた。

 私は、ペンを置いた。


「はい」


 言い訳は、いくつもあった。

 悲劇が必要だった。主人公に渡す情報があった。物語を動かすためだった。

 でも、目の前の人に言うと、どれも、ひどい。


「私の死で、何が起こる」

「ユーゴが証拠を持ち帰って、王太子の敵を告発します。事件を解決するはずだった、あなたの代わりに」


 彼は少し考えた。


「私が生きて、証拠を持ち帰っては駄目なのか」


 私は、目を伏せた。


「駄目ではありません」

「なら、そうすればいい」


 簡単な言葉だった。

 けれど、私はその選択を、書かなかった。


「私は、あなたの死を、見せ場にしました」


 喉が痛くなった。


「エステルが死ぬ場面もです。嫌われる女が消えると、読んだ人が安心すると思った」


 私は、窓から落ちる光を見た。

 ここでは、嫌われた女も、朝、お腹が空く。

 好きだった人に嘘をつかれれば、傷つく。

 死にたくないと、思う。


「あの子の怖さを、書きませんでした」


 ロアンは、机に腕を置いた。


「君の話の全てを、理解できたわけではない」


 私は顔を上げた。


「だが、私たちが今いる場所で、君は人を死なせるためではなく、助けるために情報を渡している」


 彼は、線を引いた紙を見た。

 死亡、と書いて、消した一行。


「今は、それを見る」


 私は、息を吐いた。

 息を止めていたことに、気づいていなかった。


 前世の創作が、本当にこの世界を作ったのか。

 私が、世界の一部を物語として知っただけなのか。

 それは、わからない。


 ただ、この机を挟んで、生きている人がいた。


「私の覚えている結末では、王太子は幸せになります」


 私は、言いにくいことを言った。


「別の王族が黒幕として捕まり、リネットと結婚します」

「別の王族とは」

「王弟フレデリク殿下です」


 ロアンの目が、変わった。


「今、国庫の使途を調べている方だ。総監との対立もある」


 私は、手のひらが冷たくなるのを感じた。

 ユーゴが持ち帰る証拠。

 それを、誰が用意したのか。


 ゲームでは、そこまで描いていない。


「私が死ねば、押しつける相手がもう一人増える」


 ロアンが、ゆっくり言った。


「同じやり方だな」


 私へ示された、青く光る宝珠。

 私が知らなかった、弟を失う恐怖。

 誰も疑わなければ、結末は綺麗に見える。


 私は、最後まで書いたつもりだった。

 でも、見せられた場面を、結末だと思っていただけかもしれない。


 ロアンは、立ち上がった。


「王弟殿下への接触を、確認する。ユーゴから受け取る物も、出所から調べる」


 私は新しい紙を取った。

 覚えている場面と、確かめた事実を、別々に書く。


「お手伝いできることを、教えてください」


 彼は少し、口元を緩めた。


「今は、食事を取って、眠ることだ」

「それ以外にも」

「わかっている。だが、倒れたら、私が困る」


 その言い方で、胸が小さく鳴った。

 台詞を書いたときには、聞こえなかった音だった。

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