↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/10

第5話 予定より、二日早い

 ユーゴの所在がわかったのは、その日の夕方だった。


 王太子の侍従たちが、別々に呼ばれた。

 聞いた話と、宿舎の出入りの記録を合わせる。

 辞めたはずの少年が、殿下の使う馬車に乗せられていた。

 行き先を知る御者は、最初、口を閉ざした。


 やがて、マルタさんに話した。

 鐘楼の倉庫から、北門近くの仕立屋へ移したと。


 私が審問を変えたせいで、移されたのかもしれない。

 ただ、私の記憶より早く移す理由が、最初からあったのかもしれない。

 わからなかった。


 監察隊が出発し、私は待った。


 窓の外が暗くなる。

 運ばれた夕食は、まだ温かかった。

 私は半分だけ食べ、紙を広げた。


 あの倉庫には、誰が待ち伏せするのか。

 作業服の男が二人。上に一人。

 左の通路に、銀色の管。


 銀色の管は、建物を壊す魔術を流す道具だった。

 脚本では、あっさり説明した。

 ロアンが死に、ユーゴが情報を持ち帰る。

 そのあとの方が、重要だったから。


 私は、もう一枚、覚えている部分を描いた。

 部屋の前にいる警備の人へ渡した。

 現場へ届けてもらえるよう、頼んだ。


 夜半、足音がした。

 部屋の扉が開く。


 ロアンが立っていた。

 左の頬に、血がついていた。


「少年を、確保した」


 私は立ち上がった。

 椅子が音を立てる。


「お怪我は」

「浅い。仕立屋の奥で、出口を塞がれた。最初から使える戸を二つ確かめていたので、戻れた」


 声が、いつも通りだった。

 それが、ひどく嬉しかった。


「管は、ありましたか」


 彼は、私を見た。


「あった。君の図で、警戒できた。ただ、上階ではなく、裏口のところだった」


 彼は机へ、新しい記録を置いた。

 まだ乾いていない墨。


「仕掛けを用意した男の一人を、捕まえた。道具は、財務総監の私邸から持ち出したと話している」


 私は、その名前を見た。

 モーリス。

 ゲームでは、気のいい大臣だった。

 王太子へいつも助言する。


 すべての人物が、私の知らない場所で、違う顔を持っている。


「ユーゴは、何を知っていましたか」

「金の移動と、宝珠の運び出しを見ていたらしい。今は姉と会っている。詳しい話は、落ち着いてからだ」


 私は、窓を見た。

 死ぬはずだった人は、二日前に、帰ってきた。


「変わったんですね」

「ああ」


 彼は、椅子を引いた。


「悪いことばかりとは、限らない」


 私は笑おうとした。

 でも、顔がうまく動かなかった。


「怖かったです」


 言うと、涙が落ちた。


「戻ってこないところを、知っているので」


 ロアンは、しばらく私を見ていた。

 それから、机の上の水を、こちらへ寄せた。


「今日は、戻った」


 私は、うなずいた。

 一度では、足りなくて、もう一度うなずいた。


「明日のことを聞く前に、それを覚えておいてくれ」


 私は、彼の頬の傷を見た。

 そこには、まだ、新しい血があった。

 医師に診てもらってくださいと言うと、彼は、今から行くと答えた。


 扉を出る前に、一度、振り返る。


「食事は、残りも食べろ。君の予定には、それがないようだから」


 私は、今度は、少し笑えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。