第3話 死亡予定の監察官
宝珠は偽物だった。
王宮の魔道具技師が、台座を開いた。
中には、声に反応して青く光るだけの灯石があった。
鑑定は複数人で行われ、記録も残された。
宝珠を礼拝室から運んだのは、財務総監モーリスの部下。
途中で、王太子専用の準備室を通っていた。
その場で取り替えたのか、もっと前から偽物だったのか。
まだ、調べる必要があった。
私は監察局の客室へ移された。
無罪になったわけではない。
捜査中の保護と、身柄の確保を兼ねていると説明された。
少なくとも、窓があった。
夕方、ロアンが来た。
机に、私の台本を置く。
「前半の細部が、よく合った。誰かの計画を読んだ可能性もある。もう少し、君の話を聞きたい」
私は、前世のことを話した。
脚本の仕事。恋愛ゲーム。登場人物の名前。
この世界に生まれたこと。
彼は、すぐに信じるとも、ありえないとも言わなかった。
「ならば、君は、私のことも書いた」
「はい」
私は目を伏せた。
主な恋愛相手ではなかった。
厳格な監察官。反逆者を処刑する男。
王太子を疑い、独自に調べ、あとで死ぬ。
死ぬことで、主人公へ重要な情報が渡る。
そういう役だった。
「私の最期は?」
私は、顔を上げた。
彼は、私の顔を見て、知ったらしい。
「知らなければ、そう言ってくれ」
私は紙を引き寄せた。
「三日後の夜です。旧鐘楼の裏に、使われなくなった倉庫があります。そこで、証人の少年を助けようとして、殺されます」
声に出すと、胃が痛くなった。
「待ち伏せ?」
「はい。上の通路が崩れます。あなたは少年を逃がして、自分は戻れなくなる」
私は、建物の図を描いた。
絵は下手だったが、場面の構造は覚えている。
右の階段。上の回廊。閉じた荷物用の出口。
ロアンは、図を見た。
「少年の名前は」
ペンが止まった。
「ありません」
彼は、私を見た。
「証人の少年、としか書いていませんでした」
その子にも、朝があったはずだ。
食事も、名前も、誰かに会いたい日も。
私は、一つも書いていなかった。
ロアンは、図を取った。
「明日、先に調べる。三日後まで待つ必要はない」
「私の予想が、外れたら?」
「情報の正確さを、確かめるだけだ」
私は、彼の手袋の隙間を見た。
今朝にはなかった、小さな傷が増えていた。
「あなたは、怖くないんですか」
ロアンは少し、黙った。
「怖い」
あっさり、言った。
「だから、行き先を部下に伝える。退路を調べる。一人では行かない」
脚本では、一人だった。
その方が、劇的に見えたから。
私は、図の端に書いた一行へ、線を引いた。
ロアン、死亡。
彼は、それを見ていた。
何も言わず、図を折り、内ポケットへ入れた。




