第2話 殿下、その髪は青色ですか
翌日の公開審問は、三分までは予定通りだった。
王太子が右の手袋を外した。
聖女リネットが窓を見た。
「怖いのです」
机の向こうで、ロアンの指が動いた。
封筒は、まだ閉じられている。
隣には、副官のマルタさん。彼女も、昨夜、封を確かめていた。
私は、台本を思い出した。
ここから、王太子が私を指さす。
「君は、リネットが聖女として選ばれたことを妬んだ。私との婚約を守るため、彼女を殺そうとした」
その通りに言った。
悲しげな顔まで、私が指定した通りだった。
国王陛下は、奥の席にいた。
ここは裁判所ではない。王太子が、国を揺るがす事件だからと公開の審問を求めた場所だ。
正式な裁判へ移す前に、王家の神器で、証言の偽りを確かめたい。
そういう話だった。
誓約の宝珠。
知っていて虚偽を述べた者の前では、赤くなる。
誠実な証言には、青い光を返す。
私が、便利だと思って書いた設定だった。
嘘を見抜く道具があれば、事件の説明を短くできる。
リネットが、宝珠の前へ立った。
彼女は私を見なかった。
「エステル様が、私の杯に何かを入れるところを見ました」
青い光が、指を染めた。
会場に、息を呑む音が広がる。
王太子の口元が、動いた。
ここで、悪役令嬢は叫ぶ。
違う、と。
そして、醜態を晒す。
私は叫ばなかった。
「ロアン様。検査の手順について、一つ、お願いがあります」
彼は、私を見た。
「私の紙にもある通り、宝珠は青く光りました。でも、これが本物で、正しく動いているかは、まだ確かめていません」
場が、ざわめいた。
王太子が言った。
「神器を侮辱するのか」
「道具の働きを確かめることが、侮辱になるのですか」
私の声は、少し震えた。
台本の中では、宝珠は正しい。
けれど、私は杯に何も入れていない。
どちらかが、間違っている。
ロアンが、国王へ向き直った。
「陛下。証言の判定に用いる前に、明白な真偽を一つずつ、確認したく存じます」
王は、少し考えて、うなずいた。
マルタさんが宝珠の前へ立った。
「私は、監察官の副官です」
青。
次に、王太子を見た。
「オスカー殿下の髪は、青色です」
殿下の髪は、金色だった。
誰もが見ている。
宝珠は、青く光った。
静けさが、会場へ落ちた。
マルタさんは、もう一度言った。
「この部屋には、私一人しかおりません」
青。
変わらず、青。
ロアンが、一歩進んだ。
「審問を中断します。この宝珠を、証拠品として保全したい」
彼は国王の承諾を得て、マルタさんへ指示した。
触れた人の名前を記録し、台座ごと封じる。
王太子は、宝珠を見ていた。
リネットは、手を握りしめていた。
私の処刑は、決まらなかった。
でも、誰が何をしたかは、まだ、わからなかった。
控室へ移される途中、ロアンが私の横へ来た。
「紙にないことをしたな」
「はい」
「この後は?」
私は、廊下の先を見た。
そこにあるはずの、自分の死が、一つ遠くなった。
「わかりません。もう、書いた場面と違います」
彼は、口の端だけで笑った。
「ならば、私たちの仕事だ」




