余談 サルビア
…お兄ちゃんかもしれない。そう、思った。
入学式の日。花壇に植えてある花の前で立ち止まる。花が少し元気がないように見えた。お世話してる人が気付いているか、いないか分からないけれど、勝手に触ったら怒られるかなとか色々考えていた。でもこのまま見過ごしたら枯れちゃうかもしれない、そう思うと手を伸ばしていた。花に触れる直前誰かの手とぶつかる。
「あっ。」
「ごめん!」
その人は慌てて謝ると花壇の前でしゃがんで笑った。
「ごめんね、花が元気がないように見えたから、マギアを使おうとしていただけなんだ。」
彼はそう言うと、土に手を置く。
そして、あー、やっぱりなと言いながら、手を離すと、水を持ってくると言って駆け出した。
さっきよりも元気そうな花を見て、このまま彼に任せて大丈夫だろうと思った。
そのまま立ち去っても良かったけど、気になった私は待つことにした。
走って戻ってきた彼は花に水をあげると、ふぅと一息ついた。
「君、新入生だよね?僕はマーカス・ルドフォード。植物が好きなんだ。自分で世話して育ててる。僕の秘密基地、良かったら君も見においで。あそこの校舎裏で育ててるから。じゃっ!」
マーカスと出会ったのはそれが最初だった。
興味本位だった。マーカスの秘密基地は凄かった。マーカスが育てているのはハーブやお花。綺麗で見たことない花もたくさんあった。見とれていると、土だらけのマーカスがボロボロの小屋の中から出てきた。
「これは建て直さないと駄目かもなー。」
マーカスはため息をつくと立ちすくむ私に気付いた。
「おっ!いらっしゃい。来てくれたんだ。やっぱり君も植物好きなんだね。何となくそんな気がしたんだ!」
マーカスは手招きすると、ハーブやお花を1つずつ紹介してくれる。育て方や植えかた、質問すればちゃんと返ってくる。愛情を持って植物を育ててる人だった。何の植物が好きなのか、ただ、気になって聞いてみた。
「一番好きなのはサルビア!サルビアは僕にとって、本当に特別なんだ。ここには無いんだけどね…。」
へへっと悲しそうに笑うマーカスはそう言うと土いじりに戻っていった。
どくん。と心臓が音を立てる。その花は、その言葉は私にとって特別な意味があった。
…まさか、ね。頭の片隅に追いやっていた記憶が蘇る。
父の手に引かれて去っていく。思い出の中の小さな男の子は泣きながら笑って、片手に持ったサルビアをさよならの代わりに振っていた。
母の手に引かれながら握りしめたサルビアの種は今もまだ持っている。




