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第四章:再会と真の断罪

 カイル王子の怒号が執務室に響いてからおよそ一ヶ月後にして、婚約破棄宣言から三ヶ月。

 サンクト・ベルシュタイン王国の王城に、ヴォルガルド帝国の使節団――という名目の、征服者達が乗り込んだ。

 その先頭に立つのは、豪華な漆黒のドレスを纏ったアステリア。そして、彼女の腰を抱くようにして歩く皇帝ジークフリートだった。

 玉座の間で震えるカイルと、泣きべそをかくリリウム。国王と王妃は咄嗟に退位し彼らに王位を放り投げて逃げようとしたが、既に身柄を確保されている。

「ア、アステリア! 戻ってきてくれたのか! さあ、この無礼な帝国人を追い払って、また僕を助けてくれ! 君の席は空けてある!」

 カイルの厚顔無恥な言葉に、ジークフリートが冷笑を浮かべる。

「貴様、誰の所有物に口を利いている?」

「私、物ではありません」

 ぴしり、とアステリアが腰を抱くジークフリートの手の甲を軽く叩く。その手の甲にはしっかりと光条が浮かぶ青玉の指輪、帝国の守護されし者の証が輝いている。

「む、すまない。調子に乗って言葉選びを適当にしてしまった」

 素直に謝る皇帝。才能に惚れ込んでいたはずが、すっかり人柄にも骨抜きにされているのが見て取れた。

「彼女は帝国の女公爵であり、我が最愛の婚約者だ」

「婚約者……!?」

 女公爵より皇帝の婚約者の方に反応するの気持ち悪いですわ、と小声でぼやくとアステリアは一歩前に出た。その言葉が耳に届いたジークフリートは一度エスコートの手を解きながら吹き出した。

 帝国に新たな爵位法として定められた侯爵からの陞爵の規定を初めて適用され、今は女公爵となったアステリア。氷の化け物と言われた女のその寒色の瞳は、かつての諦観を帯びた冷たさではなく、確固たる自信に満ちている。

「カイル殿下。私はもう、貴方の無能を穴埋めする奴隷ではありません。本日ここへ参ったのは、王国の全資産の差し押さえ、および、サンクト・ベルシュタイン王家の解体を通告するためです」

「な、何だと……!? そんなことが許されると思っているのか!」

「許されるか否かではありません。既に成立した事実です」

 そう、国王と王妃が口約束で譲位したとは言っても、国内外に知らしめたわけでも定められた儀式を経たわけでもないそれは帝国にも周辺諸国にも認められることはなかった。ゆえに捕らえた国王と王妃に差し押さえと王家解体を認めさせ、それは正式な手続きによって書類にされた上で帝国と王国の全土、周辺諸国へと周知されたのである。無論カイルにもその報は届いてはいたが、ヨアヒムがそう口にした時にカイルはグスタフに「その戯言を叩く口を黙らせろ!」と命じて執務室を飛び出し、気晴らしとばかりリリウムの肉体に溺れてそのまま忘れたのである。

「貴方がリリウム様に買い与えたその首飾り、その宝石一つすら、今はもう帝国の資産。……返していただきましょうか」

 アステリアが合図をすると、帝国の兵士たちが進み出た。その一団が女兵士のみで構成されていたことが、唯一のアステリアからの情けであった。

「嫌ぁぁ! 離して! 私はこの国の王妃なのよ!」

 リリウムが叫ぶが、女兵士たちは容赦なく彼女の宝石を剥ぎ取った。彼女の着ていた豪華なドレスも、支払いの滞った借金の担保として回収される。その下着姿ですら肌を晒すことがほとんどないほど厳重ではあるが、貴族女性としての名誉は地に落ちた。

 カイル、グスタフ、ヨアヒム。

 かつてアステリアを嘲笑い、追い出した男たちは、今や家も名誉も失い、ただの平民として放り出されることになった。王家と騎士団長の家は貴族の地位すら剥奪される側となっていたし、宰相は家族と共に帝国で新たな爵位を得てアステリアと同じく頭脳が一人として敏腕を奮える地位が約束されていたがカイルのイエスマンと化していたヨアヒムは除籍されるのが決まっていた。

「ああ、そうだ。カイル様」

 去り際、再び皇帝に手と腰を取られたアステリアは振り返って艶然と微笑んだ。

「貴方が私を『氷の化け物』と呼んでくださったおかげで、私は自分にふさわしい、温かな場所を見つけることができました。感謝いたしますわ」

私「スパダリは!人のこと所有物とか言いません!!なぁ皇帝さんよぉ!?」

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