表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

終章:そして、幸せに過ごしています

 数年後。

 ヴォルガルド帝国の皇宮、皇帝と皇后の執務室には、夕食の時間が近づき執務官達を定時で帰らせても未だ二人の影があった。

「アステリア。今日の執務はもう終わりにしろ。少しはお前が休まないと、俺がまた臣下たちに『皇帝が妃を働かせすぎだ』と怒られる」

 ジークフリートが、書類を覗き込むアステリアの肩を抱く。

「あと少しだけ、陛下。王国の跡地に建設が決定した新学術都市の予算案が面白いんです。かつての私のような少女たち、能力ある少年たちが、身分に関わらず学べる場所になる……。想像するだけで、楽しくて」

「お前は本当に……。だが、そんなお前だからこそ、俺はこの帝国の皇后を、皇帝の右腕を託せる」

 しかし今は皇后でも執務官でもなく、妻として夫を安心させてはくれないか、とジークフリートは彼女の手を取り、書類を取り上げる代わりに優しくキスを落とした。

 かつてアステリアがせめて親愛を、そうでなくても信頼を……そう求めた場所には、偽りと搾取しかなかった。

 しかし今、彼女の隣には、彼女の頭脳を敬愛し、その魂を尊重し、何よりもアステリアという存在をこよなく愛する伴侶がいる。

「……はい、ジーク。今夜は、貴方の好きなワインを開けましょう」

 窓の外には、広大な帝国の夜景が広がっている。

 そこには、かつて「氷の令嬢」「氷の化け物」と呼ばれた女性が築き上げた、豊かで揺るぎない平和の光が灯っていた。アステリアが来た頃はまだ夜の灯りはほとんどなかったが、鉱業とそれに伴って重工業を発展させてきたことで豊かになったこの帝都は、夜ですら賑わいそれでいて極めて治安の良い場所となっていた。

 アステリアが一か月で築いた鉱山運営の基礎は数年間かけて洗練され、フェルゼン家の資産を使って建てた魔力エネルギーを使う精錬施設の建築費を返済した上で増築も幾度か行われていた。発掘される鉱物の種類に合わせて水資源の汚染など環境破壊を起こさぬよう対処法も組み込まれた総合的な運営方針はアステリア式と呼ばれ、帝国の鉱山運営のスタンダードとなっている。もちろん鉱物は限りある資源だからこそ、ここで稼いだ分から新たな産業を興したり、アステリア式鉱山運営を教授・運営できるような人材を育ててもいる。さらに実務から芸術まで幅広い人材を発掘し、最終的には誰であれ読み書き計算といった基礎教育を身につけられるような一般教育制度の設立まで見据えて、かつての王国の王都を学術都市とする計画は今のアステリアが心血を注ぐものである。

「ああ、それはいい。ではリィアの好きなつまみも用意させよう」

 けれど愛する夫と過ごす時間が、今はアステリアの何よりの至福である。

 アステリア・フォン・フェルゼン公爵の代官として未だ活躍する父の前公爵からは「父は孫の顔が早く見たいなーほら帝国の後継者になるわけだし何より父はおじいちゃんと呼ばれたいなー」とちまちま急かされ母が扇子でそんな父をしばいていたが――それが叶うのは、そして帝国が新世代の皇族誕生の知らせに湧くのは、そう遠くない未来のことであった。


 一方、旧王国の路地裏では、泥にまみれてパンを奪い合うかつての貴族たちの姿があったというが、アステリアやフェルゼン公爵家、心ある貴族達が支えていたことで平民が食べるに困らないほどには保たれていた王国もまた今は帝国の一部として繁栄の恩恵を受けている。アステリアが王国の財政を搾り上げた時ですら、飢えて死ぬ民がいないよう平民の生活に影響しないルートを選び、無茶な増税という名の徴発が行われてもその分を配給として返還できるようにしてあった。また不当に取り上げられていた財産は、その後帝国の名で宰相を始めとする心ある貴族の奔走により持ち主へと返却された。

 つまり平民として生活したことのない元貴族らであっても、どこかで雇われて生活していけるほどの豊かさは、旧王国にもちゃんとあったのだ。

 平民として働くことすら出来なかった彼らの名前を知る者は、もう誰もいない。

私「子供に恵まれて幸せに暮らしました、はどうなのかなーって思ったけど、結局は君主制に後継者は必須なのよねーという現実に落ち着いてしまった。蛇足と言えば蛇足だけど最後にフェルゼン公爵パパにお茶目させたかったなどと供述しており」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ