初めての合コン
で、何がどうしてこうなった?
結局私は、紗耶香に強引に連れてこられてしまった。合同コンパ。略して合コンに。
「おい、紗耶香、何でお前が誘って来たメンバーの中に、男が混ざってるんだ?俺が誘えって言ったのは女の子だぞ」
「良いでしょ。あんたのお目当ての真奈は、ちゃんと連れて来てあげたんだから」
「それは……そうだけど……」
「あの子引っ張ってくるの、ホント大変だったんだからね! それより木村、イケメンは? どいつもこいつもぱっとしない面子ばっかじゃない。あんたが自慢げに言ってた大学で出来たって言うイケメンの友達はどうしたのよ。まさか、あの中にそのイケメンがいるなんて言わないでしょうね? イケメンが来るって言うからあんたの誘いに乗ってやったのに。もし、そんな冗談言いやがったら、マジ張っ倒すわよ!」
「違うよ。今いるメンバーじゃない。そいつは、わけあって後で合流。ま、期待しててよ」
「そ? それなら良いんだけど。もし来なかったらあんた、どうなるか分かってるんでしょうね」
「う゛ぐっ……わ~ってるよ!」
紗耶香と、高校時代の同級生、木村陽斗君が何やら二人でこそこそ話している。
私は隣にいた橘さんと顔を見合わせる。
お互い苦笑いを浮かべていた。
「すみません。まさか紗耶香が橘さんまで強引に誘ってたなんて……」
「いや、気にしないで。約束だったしね。ドーナツのお礼に食事に付き合うって」
「そもそもその約束自体が強引なものだったわけで、やっぱり、たかがドーナツでこんな事に巻き込んでしまって……」
「いや、本当に気にしなくて良いって真奈。それより、注文してた料理も来たみたいだし、食べよっか。せっかく来たんだ。元は取らないとね」
優しく笑いながら、私の頭を撫でてくれる橘さん。
「…………はい。本当に……すみません……」
「だから、本当に気にしなくて良いって。今からすみませんは無し。分かった、真奈?」
「……はい」
橘さんの笑顔に負けて、私は大人しく料理に手をつける事にした。
そうだよね。せっかく来たんだから、食べるものは食べてかないと。
10人近くいる居酒屋のテーブル。
だけど木村君と、紗耶香、橘さん以外見知った人のいない私は、橘さんの隣でただ黙々と目の前の料理を食べていた。
合コンなんて、今まで経験した事もなくて、どうすれば良いのか分からなかったから。
『新しく好きな人を作れば良いんだよ』
紗耶香は簡単に言ってたけど、本当にこんな事をして、浩太以上に好きになれる人と出会えるのだろうか?
やっぱり私は……
「真奈?どうした? ぼ~っとして。食べる物ない? 何か他の料理注文しようか?」
「っ!」
橘さんに声をかけられてはっとする。
「す、すみません。ちょっと考え事してて。大丈夫です。食べる物がないとか、そんなんじゃ全然ないんで。あ、橘さんコップ空いてる。ビール! ビールおつぎしましょうか?」
「え?あ~じゃあ……」
私が橘さんのコップにビールを注ごうとした時
「桜井、久しぶり。俺の事、覚えてる? 1年の時クラス一緒だったんだけど」
木村君が私と橘さんの間に強引に入って来た。
「えっと、木村陽斗君」
「良かった~覚えてて貰えて。あ、俺にもビールついでよ!」
「え?……あ、はい……」
「そんな固くならないでさ。楽しんでる? さっきからこの人とばっか話してるみたいだけどさ、俺とも話さない?」
「……えっと……」
面識はあっても、あまり話した事がなかった木村君に、急に親しげに話しかけられて戸惑ってしまった。
けれど、木村君はそんな事を気にした様子はなく、一人ぺらぺらと話し続けている。
突然割り込んで来た木村君に、橘さんもちょっと気分を悪くしたのか、どこか不機嫌な顔をしているように見えた。
いつも優しい顔しか見た事なかったから、橘さんのここまであからさまな不機嫌顔は珍しい。
「…………」
何とかして木村君を橘さんから引き離さないと。
木村君の話をそっちのけでそんな事を考えていると
「ね、桜井はさ、紗耶香から看護師目指してるって聞いてたんだけど……どうして看護学校行かなかったの?」
「……え?」
突然の木村君の質問に、私は息をのんだ。
「俺さ、桜井が看護師目指してるって聞いたから俺も死に物狂いで医大目指したんだよね。大学も同じ所に行けたら良いなってさ」
「……」
「なのに桜井は大学行かずに就職だろ?どうしてかな~ってずっと気になってたんだ。ね、どうして?」
「それは……」
私は返答に困る。
その話題にはまだ触れて欲しくなかったから。
「おい。あんたさ、その辺にしとけよ」
その時、橘さんが木村君の肩をグイッと引っ張って、強引に私と橘さんの間に割り込んでいた彼を追いやった。
「何だよあんた。俺、まだ桜井と話してんだけど。邪魔しないでくんない?」
「困ってんだろ、真奈が」
「はぁ?何難癖つけようとしてんの? つか、さっきから気になってたんだけどあんた誰? 桜井の何?」
「俺は……真奈の同僚だ」
「へ~同僚ね~。たかが同僚が、人の話に首突っ込むのやめてくんない?」
何やら二人の険悪な雰囲気に、慌てて口を挟む。
「あの、えっと……ちょっと……喧嘩は……」
でも、私の声が聞こえていないらしい二人は、更に激しく睨みあって
「はいはいはい。ストップスト~ップ。せっかくの楽しい場なんだから、盛り下がるような事しないで下さ~い」
「紗耶香」
険悪な空気に気づいて、紗耶香が仲裁に入って来てくれた。
「木村、今のはあんたが悪い」
「はぁ? 何でだよ」
「真奈にその話は禁句って、散々言っておいたでしょ」
「あっ……」
「たくっ。忘れるなんて、良い根性してるわね」
「……悪い」
「ダメ~許さない。ペナルティーとして、あんたは自分の席に戻りな」
「はぁ?紗耶香お前、話が違うじゃないか!」
木村君は慌てた様子で紗耶香にしか聞こえない小さな声で何やら抗議している様子だ。
何を話してるんだろ?
「お前、俺と桜井の仲を取り持ってくれるんじゃなかったのか?今日はその為の合コンだろ?何であいつの肩持つようなこと」
「悪いけど、私の最終目的はあの子にお似合いの彼氏を見つけてあげる事。別にその相手があんたである必要はないの」
「おい、紗耶香~、俺を見捨てるのか?」
「誰もそんな事言ってないでしょ。とりあえず今は頭冷やせって言ってんの。真奈の事が好きだって言うんなら、真奈を傷つけるような事しないで!」
「……悪かったよ」
「分かればよろしい。ところで、あんたが言うイケメンはいつ来るわけ?」
「さぁ?さっきからメールはしてるんだけど、返事がなくて」
「はぁ? あんた今日、もしそのイケメン連れて来なかったら、二度と真奈には近付かせないからね!」
「えぇ?!」
「それが嫌なら早く連れてきなさいよ! イケメンを!!」
「は、はい~~っ!」
何やら紗耶香に怒鳴られたらしい木村君は、真っ青な顔をして誰かに電話をかけだした。
「……何で出ないんだよあいつは~!沢田~お前に俺の人生がかかってるんだ。頼む、出てくれ……」
「どうしたんだ? あいつ、急に焦り出して」
「……さぁ?また紗耶香が強引に何かさせたのかな?」
その後、木村君は電話を手にしたまま席を立って、暫く戻ってくる事はなかった。




