ガールズトーク
帰り道、会社の最寄りの駅で、電車を待っている私と紗耶香。
この駅の近くには大学があって、6時過ぎのこの時間は、そこの学生達の帰宅ラッシュと重なるらしく、いつもホームはごった返している。
私とそう歳の変わらない学生達の楽しそうな笑い声がホームには響いていた。
その姿を、私はぼんやり見つめながら電車を待つ。
「ねぇ、真奈?あんたさ、好きな人とかいないの?」
「……はぁ? 突然何?」
唐突に、紗耶香がそんな事を聞いてきた。
「ん? たまには真奈とガールズトークもしてみたいな~って思って。で? いるの? いないの? 好きな人!」
「…………いる……ような……いない……ような?」
「何それ? はっきりしなさいよ!」
「そう言われても、自分でもよく分かんないんだもん」
「あ~分かった。分かったから、その話詳しく聞かせな」
「前に話した事あったでしょ。中学生の時、9年間同じクラスだった腐れ縁の男子の話。そいつの事、好きになっちゃったかもって」
「あ~、そう言えばそんな話した事あったね。中3の夏頃だっけ?」
「うん」
「……え? もしかして……まだ好きなの? その人の事が」
「だから、それがわからないんだって。もう4年近く会ってないから……まだ好きなのか、もう好きじゃないのか。でもね、ただ一つ言えるのは、あいつと離れてからの4年間で、あいつ以上に好きになれる人とは、出会えてないって事だけかな」
「こ、これは……もの凄い強敵出現? 橘さんピ~ンチ!!」
何やらぶつぶつ独り言を呟く紗耶香。周りの雑音で上手く聞き取れなかった私は、紗耶香に聞き返す。
「え? 何か言った?」
「いやいや。何でもない。じゃあさ、真奈としては、まだその人に会いたいって思う?」
「それは、まぁ……会いたい気持ちが無いと言ったら嘘になる。けど……私には会いに行く勇気がないんだ」
結局、4年経った今も、あの街に行く勇気は出せずにいるのだから。
私は、目の前にどこまでも伸びる線路を目で追いかける。
そんな私を見つめる紗耶香の視線に気付いて
「……会いに行く勇気もないのに想い続けてるなんておかしいよね」
と、苦笑いを浮かべながらそう言葉を続けた。
「真奈は、忘れたいって思ってるの? その人の事」
私は、いつまでもずっと立ち止まったまま、このままじゃいけないって思ってる。歩き出さなきゃ。
いつまでも過去に囚われ続けてないで歩き出さなければいけない。
その為にも
「忘れた方が良いんだろうな~って事はわかってるんだ。私、バレンタインに告白して、それで一度フラれてるしね。潔く忘れなきゃいけないんだろうなとは思うの」
でも、あんな別れ方なんかしたから――
◇◇◇
『で、どうしたの浩太。話って何?』
『え? あ……えっと……お、お前に……渡したいものがあって……』
『渡したいもの?』
『……あぁ。あと少しでホワイトデーだろ。だから、バレンタインのお返しにクッキーを買ったんだ』
『……え?』
『お前が早退するって聞いて急いで来たから、今この場には持ってこられてないんだけど……あ、明日……卒業式が終わった後に渡したいから……生徒会室に来てくれないか?』
『お返しなんて、そんな気を遣わなくても良かったのに』
『別に気を遣ってとかじゃない! た、ただ……腐れ縁を切るってあれは……撤回して欲しくて……』
『……どうして?』
『どうしてって聞かれると、困るんだけど……俺、今までみたいなお前との腐れ縁の関係は嫌いじゃなかった。いや、結構好きだったかもしれない。だからお前との腐れ縁を切られてしまうのは、素直に嫌だと思ったんだ』
『………』
『だから……もう一度お前と仲直りしたい。仲直りの印に受け取って欲しい』
『仲直り?』
『そう、仲直り』
『ずるいな~浩太は』
『……ダメか?』
『やっぱりずるい。やっとの思いで、浩太への気持ちに整理をつけて、その気持ちにバイバイ出来たと思ったのに、せっかくの私の決意をいとも簡単に打ち砕いてくれるんだから』
『?』
『分かった、約束する。明日卒業式が終わった後、必ず生徒会室に行くよ。そこでもう一度仲直りしよう』
『ほ、本当か?』
『うん、約束』
『『指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った』』
この約束の数時間後、あの地震が起こった――
◇◇◇
約束なんて、しなければ良かった。
あの時、約束なんてしたから、いつまでも浩太の事が気になって、心の片隅から消えてくれなくて、忘れたくても忘れさせてくれない。
「ね、忘れたいって思ってるんならさ、新しい恋探すってのはど?」
「え?」
「きっと新しい恋をすれば、自然とその人の事忘れられる日がくるよ! ね、そうしよう! はい決まり~!」
「ちょっと、決まりって、そんな勝手な」
「ってわけで真奈、合コンしよう! 合コン!!」
「えぇ?」
「実はさ、同じ高校だった木村陽斗って覚えてる? そいつから合コンの誘い来ててさ、あんたも連れて来てって頼まれてるんだよね~。良かった良かった。これであんたを誘う動機が出来た!」
「ちょっと紗耶香? あんた、何か楽しんでない? こっちは真剣に悩んでるのに」
「そんな事ないよ~。ん~あともう2、3人誘えって言われてるんだよな。橘さんは絶対誘うとして、あとは誰を誘おうか」
「ちょっと! どうして橘さん? お願いだから、橘さんにまで迷惑かけるのはやめてよ??」
「大丈夫大丈夫~!この紗耶香様に任せときなさいって~」
「何がどう大丈夫なのよ!行かないからね!私、絶対行かないからね!!」
ニコニコと怖い笑みを浮かべている紗耶香に、私は大声でそう主張した。




