無意識に探してしまう佑樹の姿
「どうした真奈? 最近、ぼ~っとしてる事多いな」
「橘さん、すみません……」
「連休ぼけか?」
「そういうわけじゃ、ないんですけど……」
年納めの慌ただしかった12月も終わり、新しい一年の始まりに、街や人が浮かれていた、そんな頃。
私は、12月の半ばを最後に会う事のなくなった沢田君の事を考えては、ぼーっとしてしまっていた。
この近くの学校に通って、この近くのファミレスでバイトをしていて、近くにいるはずなのに、あの日から私が彼の姿を見る事はない。
まるで避けられてでもいるかのように、沢田君は私の前からパタリと姿を消した。
「そういえば、最近あいつ来なくなったな」
「っ………」
「もしかして、最近やたらと外を気にしてるのは、沢田とか言うあいつのせい?」
「……そんなんじゃ、ないですよ……」
「本当か?」
「……はい」
「なら、良いんだけど」
「………」
「……何かあったなら、相談くらい乗るぞ? 俺はお前の味方だから」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫です」
「……そうか?」
心配そうな顔で私を見つめる橘さん。
これ以上心配させるわけにはいかないと、私は精一杯の笑顔を向けた。
その笑顔に、橘さんも笑顔を見せてくれる。
でもその顔がどこか寂しそうに見えた。
そんな気がした。
「そう言えば、今日はお迎えはないのか?」
「え?」
「紗耶香ちゃん。いつもなら紗耶香ちゃんが迎えに来る時間だろ?」
「あぁ、紗耶香は今日は、友達と約束があるみたいで迎えには来れないって、さっきメールが入ってました」
「そっか。冬は日が暮れるのが早いからな、気をつけて帰れよ」
「橘さん、心配し過ぎですよ。もう子供じゃないんだから大丈夫です」
「………まだまだ。成人式を迎えるまでは、真奈は立派な子供。子供を心配するのが大人の務め」
「大人って橘さんの事ですか? 私と3つしか歳違わないのに、そんな力説されても説得力ないですよ」
私はクスクス笑いながら橘さんにそう言葉を返した。
「それに、あと3、4日もしたら私だって成人ですよ。もう立派な大人です!」
「見た目中学生の真奈が言ってもな、説得力が」
「あ~酷い!童顔だって気にしてるのに~」
「あはは。ゴメンゴメン。とにかく!女の子の夜の一人歩きは、くれぐれも気をつけろよって話。寄り道しないで真っ直ぐ帰る事、いいな」
私の頭にポンと手を置いて、優しい笑顔で諭される。
「はい。橘さんはまだお仕事ですか?」
「ん?まぁな。本当は真奈を送っていってやりたい所だけど……」
「橘~、いつまで休憩してるつもりだ? 早くこっちに戻って来い!」
事務所の奥にある工場から、社長の大声が聞こえてくる。
「社長が許してくれそうにないから……」
「いつも優しい社長が、なんか最近カリカリしてますね」
「年始のこの時期はいつもそう。忙しいとすぐ態度に出る人だから」
「そうなんですね。そんな時にこんな長話、すみません。本当に私は大丈夫ですから、橘さんはお仕事に戻ってください」
「仕方ないけど、真奈のナイト役は諦めて、大人しく仕事に戻る事にするよ。じゃあ、また明日な、真奈」
「はい、お疲れ様でした。お先に失礼します」
「お疲れ。気をつけてな」
橘さんの優しい笑顔に見送られながら、私は事務所を後にする。
一人で歩く1月の東京に、今日は真っ白い粉雪が舞っていた。
すれ違う人の中には、傘を指す人の姿も目につく。
その人達を振り返っては、私はゆっくりとした足取りで駅を目指して歩いた。
人込みの中、キョロキョロと辺りを見渡しては溜息がこぼれ落ちる。
「同じ街にいても、案外姿って見ないものなんだな……」
無意識にこぼれ落ちた言葉。
「っ!」
人込みの中、沢田君の姿を探している自分に気付いた。
「何やってるんだろ、私……」
そう呟きながらも、駅前の交差点で信号待ちをしている間に、気付けば沢田君がバイトをしているファミレスの前で、店内を覗き込んでいる私がいた。
でもやっぱり、彼の姿は見当たらなかった。




