佑樹の宣言
「お待たせっ!」
私と紗耶香が丁度注文した料理を食べ終わる頃、沢田君が私達のテーブルに、先程とは違う私服姿で現れた。
「バイト終わった?」
「おう」
沢田君が紗耶香の問いかけに答えながら、私の隣の椅子へと腰かけてくる。
「あ~腹減った。俺も何か注文する。メニュー取ってくれ」
「あぁ、はいはい」
「サンキュー。何を食べようかな~っと」
紗耶香から受け取ったメニュー表を眺めながら、ご機嫌にメニューを選ぶ沢田君。
「じゃあ、私、この後用事あるから先帰るね。真奈はもう少しここで、旧友との時間を楽しんで」
「ちょっ……えっ? 紗耶香?!」
その隣で一人だけ先に帰ろうと立ち上がった紗耶香を慌てて呼び止めるも、悪戯に微笑みながら、私達から逃げるように紗耶香はそそくさと店を出て行った。
紗耶香の奴~、またやられた!
また紗耶香にはめられたと気づいた時にはもう遅く、テーブルには私と沢田君の二人だけで取り残された後だった。
「……」
「…………」
紗耶香が去った後、会話のないテーブル――
き、気まずい。何か……話さないと。何か話題を……
「さ、沢田君は……今何やってるの?」
気まずさから私がぎこちなく会話を振ると、沢田君はナチュラルに言葉のキャッチボールを返してくれた。
「ん?学生」
「ど、どこの学校?」
「この近くの大学だよ」
「……本当に、そんな近くにずっといたんだ」
「だな。俺もびっくり。そうだ。そう言えばまだ浩太にこの事話してなかった。あいつ、ずっと桜井の事心配してたからな。教えてやったらきっとすげー喜こ」
「やめて! 浩太には言わないで!」
何となく形になってきていた会話を、「浩太」の名前に私が大きな声を出して止めてしまう。
電話をかけようとしていた沢田君は、驚いた顔で私を見ている。
周りのお客さんも、私達の事を不思議そうな顔で振り返っていた。
でも私には、そんな視線を気にしてる余裕はなくて、私は再び沢田君にお願いした。
「お願い……浩太には……言わないで……」
「……わかった。言わない。桜井の許可が降りるまで、浩太や他の皆には言わない」
「……ありがとう……」
「……」
「…………」
また訪れる気まずい沈黙。
「ね、みんなは……元気? 今、皆どんな20歳になってるのかな?」
その沈黙に耐えかねて、私はそんな質問を沢田君に投げ掛けた。
「みんな元気だよ。みんなそれぞれ夢に向かって頑張ってる。同じクラスにいた安藤って覚えてるか?あいつは――」
その後、沢田君が今のみんなの事を沢山沢山教えてくれた。
沢田君の話に、みんなのそれぞれ頑張ってる姿が目に浮かぶようだ。
私は、時間も忘れて沢田君の話を夢中になって聞いた。
「おっと、気が付けばもうこんな時間か」
「あ、本当だ……」
店にかけられていた時計は、10時を指している。
「俺、明日大事なテストがあるんだよな。帰って勉強しないと」
「そうなの? ごめんね、それなのにこんな遅い時間まで」
「いや、全然。楽しかったし、気にしなくて良いよ。それに……」
沢田君が優しい笑顔を浮かべながらこちらをじっと見つめてくる。
「それに?」
「桜井が、俺達の事、嫌いになったわけじゃないんだって分かって良かったし」
「…………」
「今のみんなの話、楽しそうに聞いてくれて。桜井も、桜井なりにみんなの事心配してくれてたんだな」
「…………」
「それが分かっただけでも、十分な進歩だ」
「え?」
「俺、諦めないから。絶対、桜井の事をあの町に連れて帰ってみせる。あの町で桜井の事待ってるみんなの為にも、絶対に!」
「……」
「そんなわけだからさ、また会いに行くよ。桜井もまた、ここに会いに来てくれたら嬉しいな。じゃ、また」
爽やかに微笑みながら、去って行く沢田君の背中を、私はただぼんやりと見つめ続けていた。
沢田君の姿が見えなくなった頃、ふと視線を下に落とす。……と、先程沢田君が座っていた席に、ノートや教科書らしき物が入った半透明のケースが置いてある事に気付いて。
「っ!沢田君、忘れ物っ」
慌てて声を出すも、沢田君の姿は既にない。
「どうしよう、これ……?」
私は小さくため息をついた。
「仕方ない」
沢田君の忘れ物を持って、私も店を出た。




