紗耶香と祐樹の画策
「よっ、桜井!」
「沢田君?!……どうしてここが??!」
「桜井の従姉妹が教えてくれた。ここで働いてるって」
「……紗耶香の奴……」
――次の日、沢田君が会社に私を訪ねてやってきた。
するとそこに、丁度昼休憩を終えた橘さんが戻ってきて、沢田君と鉢合わせする。
「あぁ!? お前、昨日の? 何しに来た? 真奈が迷惑してるって分かんないのか? 二度と真奈の前に現れるな!」
昨日、情けない姿を見せたせいか、橘さんは沢田君の顔を見るなり掴みかかりそうな勢いで、追い返そうとしている。
「た、橘さん? 落ち着いて下さい。昨日のあれは、沢田君が悪いわけじゃなくて……全部私が悪いんです」
止めに入る私を無視して、沢田君も負けじと言い返す。
「悪いけど、貴方にとやかく口出しされる覚えはないです。俺達のことはほっといてくれて良いですから」
「何だと? 真奈は可愛い後輩だ!後輩が困ってるのに、見て見ぬふりなんて出来るわけないだろ!」
「俺だって、桜井は大切な友達です。友達に会いに来て何が悪いんですか?」
「こいつっ!」
「橘さんも、沢田君も落ち着いて!」
「はぁ、この人がいると、ろくに桜井と話も出来ないな。仕方ない。今度ここじゃない別の場所でゆっくりお茶でもしよっか桜井。ってわけで、宜しく!」
橘さんに対してうんざりした様子でため息をついた沢田君は、ポリポリと頭をかきながら、一方的にそれだけ言い捨てると、町の雑踏の中へと消えて行った。
「な、何なんだあの強引で失礼な奴は! 真奈、あいつの一方的な誘いになんか乗る必要ないからな。 あんまりしつこく付きまとわれるようだったら、我慢しないで俺に言えよ」
戸惑う私の隣で、何故か私以上に怒っている橘さんの姿が、私を冷静にさせる。
「す、すみません、橘さん、ご迷惑をおかけして。でも、本当に大丈夫です。沢田君、本当は凄く良い人なんですよ」
「良い人? やたら強引なあいつがか?」
「ははは、昔はあんなに強引な人じゃなかったんですけど……」
沢田君はどちらかと言えばクールで、あまり自分を表に出さないタイプの人だった。
だからいつも、浩太に振り回されて――そう、強引だったのは浩太の方。
いつも人を強引に面倒事に巻き込もうとしていた浩太の方。
ふと今の沢田君の姿が浩太の面影と重なって見えた。
そんな気がして、私の心の奥底にしまい込もうとしていた浩太の記憶が、少しずつ顔を覗かせはじめる。
そして沢田君は、その後も何度か会社にやって来ては、何故か少しずつ私の会社の人と馴染んで行った。
***
「真奈~、帰ろ~」
「紗耶香」
ある日の夕方、いつものように会社まで私を迎えに来てくれた紗耶香が言った。
「今日お母さん、会社の飲み会で帰り遅くなるから私達だけで夕飯済ませてって言ってたよ」
「そうなんだ。じゃあ、どうしようか?」
「帰ってご飯作るの面倒臭いし、どっか食べに行こうよ。そうだな、駅前のファミレスなんてどう? こっから近いし」
「うん、良いよ」
夕飯の相談をしながら歩く帰り道。紗耶香は、会社から一番近い駅前に立つファミレスへと私を連れて行った。
「よっ!」
「………ど、どうして沢田君がここに?」
店に入ると、ウェイター姿の沢田君が、私達を出迎える。
「どうしてって、ここ俺のバイト先」
「……そうなんだ。偶然……だね……」
私は紗耶香に向かって冷ややかな笑みを向けながらそう言った。
紗耶香の奴、絶対知ってて連れて来たんだ。
私と目を合わせようとしない紗耶香の姿にそう確信する。
「俺、あと30分もしたらバイト上がるからさ、二人共何か注文して待っててよ」
「了解~!じゃあ、この店のオススメは?」
「そうだなぁ……」
いつの間に二人は仲良くなっていたのか。私はムスッとした顔で頬杖をつきながら、二人の様子をじっと眺める。
「真奈? 真~奈、聞いてる? あんたは、何食べたいの?」
「………」
「まぁまぁ、そう怒んないでよ。こうでもしないと、あんたいつまでも逃げ続けるでしょ?」
「……まぁ、確かにそうかもしれない……」
「でしょ? 偶然再会したこれはもう運命なんだよ。 運命には誰も抗えないの」
「運命?」
「そうだよ。あんたは凄いと思わない? 故郷を離れてから何の連絡も取ってなかった二人が、この沢山の人で溢れる東京で再会した。しかもだよ、こんなに近くで働いてたなんて! 私としては、これはもう運命としか思えないわけよ!!」
どこか興奮気味にそう話す紗耶香。
「紗耶香、あんな面白がってない?」
「まさか。私はいつでも真剣。絶対この再会には何か意味があるんだよ。だから真奈は、この運命から逃げちゃいけないと思う」
「……」
紗耶香の言った“運命“と言う言葉が、暫く私の耳に残って離れなかった。




