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15の春 未来を奪われた私達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く ―真奈side―  作者: 汐野悠翔


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再会の果てに

「桜井! あんた、桜井真奈だろ? 俺だよ。中学の時同じクラスだった沢田祐樹。覚えてない? 俺の事、覚えてないか? 浩太の友達でさ、一緒に生徒会やってた沢田祐樹」


「………」



覚えてる。

忘れるわけない……。



「待てよ。何で逃げるんだよ。やっと……やっと会えたのに」


「………」


「ずっと心配してたんだ、桜井の事。津波に巻き込まれて、県外の病院に運ばれたって話は杉崎先生から聞いてたけど、その後誰も連絡が取れなくて、どこにいるのか、元気にやってるのかって、ずっと……ずっと心配してたんだ」


「ごめんなさい……」


「元気にしてるなら、どうしてあの町に帰って来なかった? 今の今まで、どうして誰とも連絡取らなかったんだ?」


「ごめんなさい……」



沢田君の言葉に、私は「ごめんなさい」。ただその言葉しか出て来なかった。


合わせる顔がなくて、私は必死に逃げることしかできなかった。



「頼むから、逃げないでくれ! 何で逃げるんだよ。逃げなきゃならない程、桜井は俺や、あの町の皆に会いたくなかったのか? 俺達の事、嫌いになったのか?」



違う、嫌いになったわけじゃないっ!


ずっと、ずっと会いたかった!!


だけど……



「浩太の事まで……嫌いになったのか?」


「っ………」



沢田君の口から出た浩太の名前に"トクン"と私の心臓が大きく跳ねる。



「この5年間、あいつはずっと桜井の無事を信じて待ってたんだ。桜井は必ず戻ってくる。元気にこの町に戻ってくるって、ずっと、ずっと……信じて待ってたんだ。今だって……その浩太からも逃げるのか?」


「っ!」



浩太が? 私を待ってる?


動揺した。浩太と言う名前一つで、逃げる事も忘れる程に、動揺した。



「捕まえた!」


「っ!?」



足を止めたその瞬間、沢田君に腕を捕まえられた。と同時に、強く腕を引かれて、沢田君の方へと強引に振り向かせられる。



「…………」



沢田君の顔が見られなくて、私は慌てて視線を下に逸らした。



「……どうして……目逸らすんだよ……」


「ごめん……なさい」


「何でさっきから謝ってるの?」


「ごめんなさい……」


「何で……泣くんだよ……」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「だからどうして……そんな辛そうな顔して泣いてんだよ。俺は、桜井にまた会えてすっっげぇ嬉しいのに、桜井は……違うんだな……」


「っ……」


「なぁ、この5年の間に、いったい何があったんだ?」


「……ごめん……なさい……」



もう一度、彼にその言葉を伝えた時、後ろから紗耶香の声が聞こえて来た。



「真奈っ! やっと追いついた~! 急に飛び出してくからびっくりしたよ。何があったの? 大丈夫?」



突然の紗耶香の登場に驚いたのか、沢田君の、私の腕を掴んでいた手が一瞬緩んだ。


その隙に、私は彼の手を振りほどいてまた彼から逃げ出した。



「ちょっと、真奈?!」


「桜井っ!!」



二人の叫ぶ声を背中に感じながら、私は必死になって逃げた。




 ***



「桜井っ……」



祐樹が、暗闇へと消えて行く真奈の後ろ姿を、慌てて追いかけようとした時、後ろからツインテールでネコ目が特徴の女の子、紗耶香に腕を掴まれる。



「ちょっとあんた、真奈に何したのよ!」


「離せ」


「離さない! 真奈を泣かせるんだったら、あんたを真奈に近づかせるわけにはいかない! 真奈は私が追う! あんたには行かせない!!」



睨み合う二人。


その時「俺が行くよ」と、いつの間にいたのか、長身で短髪、そしてガッチリと逞しい体つきの男が声を上げた。



「っ!橘さん?!」



暗闇の中から息を切らせて現れた橘が、紗耶香達を一瞬のうちに追い越して行き、真奈が消えて行った暗闇へと、橘もまた姿を消して行った。


橘の姿にホッと胸を撫で下ろした紗耶香は、再度祐樹をきつく睨みつける。



「ね、どうして真奈は泣いてたの? あんた、真奈に何したの」


「……」


「何とか言いなさいよ!あんたが真奈の言ってた片思いの相手かと思って期待したけど……」



紗耶香の言葉に整った祐樹の顔が驚きに変わる。



「一瞬でも期待した私が馬鹿だった。真奈を泣かせるようなあんたが、真奈の想い人なはずないよね! もしたとえそうだったとしても、真奈を泣かせるなら貴方を絶対、あの子に近づかせない!」


「その話……桜井がしたのか?」


「え?」


「桜井は、何て言ってた?」


「別に、なんだって良いでしょ。もうあんたには関係ない話なんだから」


「頼む、教えてくれないか?」


「……」


「頼む……」



イケメンの真剣な表情に、紗耶香は「うぐっ」と悔しそうな声を漏らした後、イケメンに頼まれたら断れないかと、仕方なく口を開き始める。



「……5年も会ってないから、今も貴方に気持ちがあるのかはわからない。けど、今もまだ貴方以上に好きになれる人には出会えない。あの子は、そう言ってた」


「……」


「きっと真奈は、まだ好きなんだと思う。貴方の事が。忘れようとしても忘れられないくらい、凄く凄く好きなんだと思う」


「……めだ……」


「え?」


「やっぱりダメだ……。桜井は……逃げちゃダメだ」


「何? どういう事?」


「逃げちゃダメなんだよ!あいつから、浩太から、逃げちゃダメなんだ!」


「……??」


「悪いけど、協力してくれないか? あいつらは、今もお互いに好き合ってるんだよ。片思いなんかじゃない。浩太は今も桜井の事を待ってる。5年間、信じて桜井の帰りを待ち続けてるんだ」


「えぇ……?」


「頼む。君が桜井の事を心配してるように、俺も浩太の事が心配なんだ。桜井の為に何か力になりたい。君が思ってるのと同じように、俺も浩太の力になってやりたいんだよ。あいつらの事、何とかしてやりたいんだよ! だから頼む、俺に力を貸してくれないか?」


「……」



   ***



「真奈っ! こんな時間に女の子の一人歩きは危ないよ」



沢田君から必死に逃げていた私の腕を、後ろから不意に掴まれる。



「いやっ! 離してっ……」



掴まれた腕を振りほどこうともがく私。


抵抗しながら視界に入ってきた意外な人物に、私は驚きの声を上げた。



「橘さん?! どうしてここに?」


「ん? 知らない人達の中に置いていかれて、気まずかったから俺も逃げ出して来た」


「っ! すみませんっ! 橘さん、私……自分の事ばっかりで……」


「良いよ、気にしてない」


「でも、本当に申し訳なくて……合わせる顔もないです……」


「ん~、それは困ったな。真奈が顔も見せてくれなくなるなんて。じゃあさ、何かお詫びをして貰おうかな」


「……はい。私に出来る事ならなんでも……」


「今度この埋め合わせしてよ。また一緒に飯食べに行こう。俺が奢るからさ」


「そ、それじゃあ埋め合わせになりませんよ。もっと他に……せめて私が奢ります」


「良いの。俺はそれが良いの」


「でも……」


「先輩命令!」


「………」


「俺が、真奈とまたご飯食べに行きたいの。もし俺と二人っきりが嫌だったら、紗耶香ちゃんも誘ってくれて良いからさ。な? また、ご飯食べに行こう?」


「………」



橘さんの誘いに、私は小さく頷いた。


その返答に満足したのか、わしゃわしゃと私の頭を撫で付ける橘さん。



「よし、約束だ。じゃあ約束ついでにもう一つ」


「?」


「今は何も聞かない。けど、いつか話して聞かせてくれないかな?」


「何を……ですか?」


「真奈のこの、涙のわけを」



そう言って橘さんは私の頬に流れていた涙を優しく拭った。



「っ……」



突然の事に、慌てて橘さんから離れると、ゴシゴシと袖口を顔にこすりつけて涙を拭いた。



「あの……えっと……これは……」


「良いよ。今はまだ聞かない。いつかで良い。真奈が自分から話してくれるのを待つよ。いつか真奈が俺の事を心から頼ってくれる日がくるのを、俺は待つよ」



そう言った橘さんの顔は、いつもの優しい微笑みの影に、どこか寂しさが含まれているような気がして、私は橘さんの名前を呼んだ。



「………橘さん?」



すると橘さんは、「帰ろっか。送ってく」といつもの爽やかな笑顔に戻ったものだから、私も気のせいだったのかと、それ以上気にすることはやめた。



「え? でも」


「先輩命令。今日は大人しく俺に送られる事」


「……はい」



その後私達は、他愛もない会話をしながら、家を目指して歩いた。


わざと、沢田君の話題に触れないでいてくれる橘さんの優しさが、ありがたかった。


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