テストパイロット
メリケン、フロリダ州。パトリック空軍基地。
格納庫の外では、濃い青の空が広がっていた。
ニナ・アームストロング大尉は、辞令書を折りたたんでポケットに入れながら、隣を歩くラヴェル中尉を見た。
「テストパイロット、ねえ」
「悪くないじゃない。カリブ海の魚雷艇狩りより面白そう」
二人は笑った。
格納庫の前に、同じ辞令を受けた仲間たちが集まっていた。総勢6名。メリケン空軍と海軍から選り抜かれたテストパイロットたちだ。全員が、ベアキャットの操縦経験者。全員が、この世界でも指折りの腕を持つ。
「箱舟奪還作戦から1年。巨大空母からサルベージした機体やミサイルのコピー。もう、試作品が出来たのかも」
「それとも、修理終わらせて飛べるようになったのかな。男世界の戦闘機。胸熱だわ」
「ミサイル、爆弾を10t積むって噂の重攻撃機。機動性は低いらしいけどロマンではある」
「日本のミサイル。北中国の空母を一瞬で終わらせたらしいしね」
誰もが期待していた。
格納庫の扉が開く。
基地司令が姿を見せた。
「諸君、集合」
6名のパイロットが整列する。
司令は一人ひとりの顔を見渡した。
「諸君らは、現在メリケン軍でもっとも優秀なパイロット達である
ゆえに、今後、新型航空機の試験任務に従事してもらう」
やはり。
誰もがそう思った。
司令は続ける。
「なお、本計画は国家最優先事業に属する
君たちは、人類初の宇宙飛行士。その候補生である
高速飛行、高G耐性、緊急時の判断能力。
この三つを満たす職業は、現在のところ戦闘機パイロットしか存在しない。
マッハ7、高度100キロ、未知の世界だ。
そこに挑む資格があるのは君達だけだ」
ざわめきが起こる。
宇宙飛行士。
その言葉が、胸の中で静かに火を点けた。
「全員、中へ」
格納庫の中は、薄暗かった。
中央に、巨大な布がかけられていた。
全員が、その前に整列する。
司令が、静かに口を開いた。
「ディアナ・プロジェクトの第一フェーズ。目標は、メリケン独自の有人宇宙飛行の実現」
布が、引かれた。
沈黙が、格納庫を満たした。
それは、ニナが想像していたものとは、全く違った。
ロケットではなかった。
翼があった。
細く、鋭く、まるで槍のように伸びた機体。全長は20メートルを超えている。先端が異様に尖り、胴体は極限まで絞り込まれていた。エンジンノズルが、後部に三基。その周囲に、固体燃料ブースターが束ねられている。
「極超音速実験機、コードネーム——ドラゴン。
ベアキャット2倍以上のマッハ7。大気圏の端をかすめる速度域。機体表面温度は千度を超える。
高度100km。宇宙への入口。この機体で生き残れる人間だけが、次のフェーズへ進む」
格納庫に、静寂が落ちた。
ニナは、ドラゴンを見つめた。
名前通りの怪物だと思った。
同時に——乗りたいと思った。




