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メリケンの底力

メリケンのニューヨーク郊外。ドミニクの実家


ベビーベッドで眠る、一人の赤子。

男子だった。


政財界の重要人物たちが、その周囲に集まっている。普段は国家の命運を左右する判断を下す女たちが、今この瞬間だけは、ただの見物人だった。


「可愛いわねえ」

「鼻筋はドミニクそっくり」

「いや、目元は父親似じゃないかしら」


当の本人は何も知らず、すやすや眠っている。

ドミニクは苦笑した。

まるで国家的展示物だ。

そんな空気の中、拍手が起きた。


ドロシー大統領がグラスを掲げたのだ。

「まずは祝辞からね。

ドミニク。出産、おめでとう」


「ありがとうございます」


「母子ともに健康。それが何よりよ。

この子が大人になる頃には、今より少しましな世界にしておきたいものね」


会場から笑いが漏れた。


「さて、報告も兼ねてと聞いているわ。聞かせて」


ドミニクは小さく頷いた。

「まず阪神エリアです」


大型モニターに地図が映る。


夢洲。

新六甲アイランド。

ポートアイランド。

神戸空港。

巨大開発計画が赤線で結ばれている。


「日本側との交渉は順調です。

「リゾートホテル二件。

医療施設一件。

買収契約を完了しました。

周産期医療センターとして改装します。

来年から利用可能です」


財界人の一人が口笛を吹いた。

「早いな」


ドミニクは頷く。

「日本側も歓迎しています。

我々が資金を出すことを歓迎している状況です」


次のスライド。


企業ロゴの一覧。

「こちらは日本市場です」


会場の空気が少し変わる。

経済案件だ。

「転移によって本国との連絡を失った旧アメリカ系企業、

特にIT大手の日本法人と接触しました」


数人が身を乗り出す。

「結果は?」


「業務提携で合意しました」


ざわめき。


「かなり高くつきました。

漢系企業と競り合いましたから。

初年度は大赤字です。

ですが、日本市場への足掛かりは確保できました」


ドロシーが頷く。

「赤字は投資ね」


「はい」


「撤退する気はありません」


「食料輸出は好調です。特に食肉関係が有望です。日本向けの食肉輸出は前期比で40%増。窒素肥料の供給が安定したことで、肥育できる頭数が増えました。このままインフラを整えれば、さらに輸出増加につなげられます」


ドロシーが短く言う。

「↑Good deal ね」


「はい。ただし、物流インフラの整備が先決です。冷凍コンテナの調達に予算が必要です」


「後で詳細を出して」


「最後に」

ドミニクが少し笑った。


「スポーツです。

日本の男性プロチームと、スーパーガールによる

対戦イベントをプロモーションしたいと考えています。

競技によりますが、ルールを調整すれば十分接戦になります

男性トップ選手は体格が非常に優れています。

興行として成立します。

観客も集まるでしょう」


ドロシーが吹き出した。

「つまり、

イケメン輸入計画?」


会場が爆笑する。


ドミニクは肩をすくめた。

「否定はしません」


笑いが収まった後。


ドロシーが真面目な顔になった。

「日本人の対メリケン感情は?」


会場も静かになる。


ドミニクは答えた。

「意外なほど悪くありません。

第七艦隊事件の影響は限定的です。

一般市民は我々を普通の貿易相手として見ています」

ただし、日本政府は警戒しています」


「でしょうね。

向こうから見れば、私たちは前科持ちだもの」


苦笑が広がる。


「もう一つ、

在日アメリカ人の感情は悪いです。

リトルアメリカです。

彼らは第七艦隊事件を忘れていません。

日本への同化も進んでいます。

我々への警戒心は日本人以上です」


ドロシーは腕を組んだ。

「なるほど。面倒ね。

想定内ではあるけど。」


「食肉と病院は、↑Good deal。進めなさい」


「はい、大統領」


窓の外では夕日が沈み始めていた。


ドロシーはベビーベッドを見た。


赤子が、目を覚ました。

小さな手が、空を掴もうとするように動いている。


「名前は?」


「ジョン、と付けました」


「古風ね」


「旧世界への敬意です」


ドロシーは、少しだけ表情を緩めた。

「立派に育てなさい」

それだけ言って、踵を返した。

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