上司達の思惑
響子が退室した後の邪馬台国首相官邸の会議室
少しの静寂が流れた。
官房長官が、ゆっくりと資料を閉じた。
「……彼女、最後まで気づいていませんでしたね」
財務担当の閣僚が、苦笑した。
「気づいていますよ。改姓の話のあたりで、顔色が変わりましたもの」
「それでも、何も言わずに出ていった」
「言ったところで、もう止まりません。本人もそれを分かってます」
外務担当の閣僚が、ぽつりと言った。
「本当に、彼女が描いたわけではないのでしょう」
官房長官が頷いた。
「もちろんです。あの王女様方が、最初から彼女を中心に据えるつもりで、あの病室に入り浸っていた」
「桃鉄も、モノポリーも、実際の利権分割を、ゲームの形で先に合意しておいて、後から響子さんの口を借りて、表向きの『発案者』にする」
財務担当が、低く笑った。
「よく出来た仕組みだわ」
高池首相が、静かに口を開いた。
「皆、分かっていたのですね」
官房長官が答えた。
「もちろんです。各国の元首級が直接合意したと公表すれば、外交問題になります。公表せずに話を進めて、調べに調べてたどり着くのが、一般人、ということにしておけば——」
「誰も責任を取らずに済む」
「その通り」
外務担当が、少し顔をしかめた。
「彼女には、酷な話ですが」
官房長官が、資料を整えながら言った。
「酷ですが、適任です。自己評価は低い様にみえますが」
「彼女は優秀です。日本との交渉を早期にまとめあげた。
初代駐日大使として、大使館の業務を軌道に乗せた。
各国の外交官達との交流も厚い。
九条院が平民から取り立てたのも納得だわ」
「彼女は優秀すぎる。何を渡しても、形にしてしまう」
「形にしてしまうから、利用される」
「そうです」
「妊娠はどっちだったのかしら」
「わざとなら、天才的な策略家」
「チョンボなら?」
「とてつもない豪運の持ち主」
首相が、窓の外を見た。
「どちらにせよ、10年後には首相候補でしょう」
「本人は嫌がるでしょうね」
「嫌がるでしょう」
「逃げるかもしれません」
「それでも周りが逃がさない」
「お気の毒に」
「さっそく、次の選挙、比例トップで当選してもらいましょう」
「藤堂への養子の話は、本家の意向ですか」
「響子さんは、本当の直樹様の娘よ。あとは、彼女を、こちら側に完全に縛り付けておくための、保険でしょう」
首相は、しばらく黙っていた。
それから、誰に言うでもなく呟いた。
「気の毒なことだ」
「同情するが、代わりはいない」
財務担当が、軽く言った。
首相は、何も答えなかった。
会議室を出る間際、官房長官が一つだけ付け加えた。
「次の会合も、彼女に任せましょう」
「彼女は嫌がるでしょうね」
「嫌がっても、こなします。それが、彼女の一番の不幸な才能です」
誰も、それに反論しなかった。
「四つ子に会える時間は確保するように。サポートも十分にみてあげてね」




