特命大臣 藤堂響子
先日のあれは、絶対にお茶会なんかじゃない。歴史の教科書に太字で載るタイプの、何とか会談と呼ばれるべき恐ろしい密約の現場だった。
そう確信した私は、ボイスレコーダーの録音を何度も聞き返し、藤堂静香(妹)様に文言の細かいニュアンスを確認する作業を文字通り血を吐く思いで繰り返した。
そして今、邪馬台国に一時帰国した私は、高池首相をはじめとする閣僚たちの前で、そのまとめた概要をプレゼンさせられている。……本当に、なんで?
【九条院響子による「夢洲会談」概要報告】
国際周産期医療センターの設立
「『第二藤堂直樹記念病院』を、漢、メリケン、ヨーロッパ、そして我が国の4者で分割所有することになりました。現在の記念病院の全権と、新病院のVIPルーム50室が我が国の取り分となります。これにより、我が国の費用負担は総事業費のわずか10%に抑えられます」
藤堂直樹記念財団・先端医療研究所の創設
「各国共同の枠組みです。日本の高度医療技術を、あらゆる医療分野に適用するための臨床試験を日本国内で行います。さらに、最大の懸案事項である『男女比問題』の根本的解決に向けた研究もスタートします」
ホテルGOKOKUの建設
「出産・医療目的で長期滞在する世界各国の要人たちの宿泊拠点。および、表沙汰にできない外交、経済交流、文化交流、そして今回のような『秘密会合』の絶対的拠点として機能させます」
大阪・神戸第二首都圏構想
「藤堂記念病院のある夢洲、新アメリカ領となった新六甲アイランド、そして国際周産期センターとホテルGOKOKUを含む新たな埋め立て地。これらに加え、舞洲やポートアイランド等に、世界各国から主要な金融機関、証券取引所、各種商品市場が参入することで新たな国際金融拠点を作ります」
大阪湾メガループ(超巨大環状鉄道構想)
「阪急電鉄を伊丹から大阪空港(伊丹空港)まで延伸して複線化。さらに南下させて阪神尼崎を経由し、舞洲、夢洲、新六甲、神戸空港を繋ぎ、新開地液で阪急および地下鉄に接続します」
「……以上です。なお、これら主要企業との水面下での交渉は、静香様の手によってほぼ纏まっており、漢、メリケン、ヨーロッパ資本の参入も確定しています。最終的な総事業費は、当初の1兆円を遥かに超え、『20兆円規模』となります」
私が報告を終えると、会議室にいた大臣たちが一斉にざわめき立った。その視線には、畏怖と、どこか引きつった尊敬の色が混じっている。
高池首相
「……言葉にならないわ。開いた口が塞がらないとはこのことね」
「こちらでも確認したが、本当に動き出しているわ」
「この壮大な世界再編のために、妊娠したのね。なんという恐ろしい行動力かしら」
「目的の達成のためなら、自分の身体や妊娠さえ政治の道具として躊躇なく利用する。響子、おそろしい子」
いや、違う。みんな普通に、ビーズクッションに埋もれて桃鉄してただけだから。
「それにしても九条院さん。各国のVIP妊婦を連日、自分の病室に呼び寄せて、この構想を練り上げたんですってね?」
「ほとんど君の発案だと聞いているわ。中心ホテルを『GOKOKU』と名付けたのも貴方ね?」
「漢、メリケン、ヨーロッパのG3の一角に、我が国(邪馬台国)が加わり、さらに日本と合わせてG5……。『五つの国(G5)で世界を護る(護国)』。GOKOKUって、そういう意味を込めたダブルミーニングなのよね。恐ろしいキレ者だわ」
違う。助けて。
閣僚たちが勝手に私の知略を神格化していく中、上座に座る高池首相が、静かに資料を閉じて私を見た。
「いくら賞賛しても足りませんが、そろそろ時間でしょう。九条院響子さん。あなたの功績を称え、本日付であなたを『外交・経済・生殖資源担当 特命大臣』に任命します。引き続き本件をお願いします」
「……はい?」
「それから、藤堂の本家より『今日より九条院ではなく、藤堂を名乗るように』とのお達しがありました。明日は朝一番で、藤堂の本拠地へ向かって挨拶を済ませてきてください」
特命大臣。しかも、気がつけば名字が「藤堂響子」になっている。完全に外堀どころか内堀まで埋め立てられて、国家の重要人物に祭り上げられてしまった。
私は震える声で、首相に一番聞きたかった質問をぶつけた。
「あの……総理。私、生まれたばかりの我が子(四つ子)には、一体いつになったら会えるんでしょうか……?」
すると総理大臣は、さも最先端のシステムを知っているかのような、得意げな顔でこう言った。
「週1ぐらいは。残りはリモート? 最近、巷で流行っているのでしょう? 画面越しでも可愛いわよ」
ドナドナが聞こえる。




