ツキマデコイ モノリス
『ツキマデコイ モノリス』
麻田総理は、しばらくそれを見つめていた。
東京、総理官邸。
会議室に呼ばれたのは、官房長官と、官房副長官、そして数名の閣僚だけだった。
総理は、配られた資料に目を通していた。
「水沢からの報告書、ですか」
官房長官が頷いた。
「アポロ15のレーザー反射器、応答確認。これ自体は、想定の範囲内です。問題は——
モールス信号 ツキマデコイ モノリス」
「月にモノリスなる知性体が存在するのか」
「水沢の解析班は、間違いないと言っています。発信源は月面、アポロ15着陸地点付近」
総理は資料を置いた。
「誰の仕業だと」
「分かりません。ただ——水沢の所長が、こう言っています。この世界は、遥か未来の地球かもしれないと」
会議室が、静まり返った。
「未来の地球。我々と同じ時間軸か、パラレルワールドの未来か」
「小説の中とか、仮想世界さえ否定できません」
官房副長官
「これ、人類史がひっくり返る話ですよ」
麻田総理
「だから公表しない。公表は止めてあるな」
官房長官が、即答した。
「もちろんです。機械の不調で失敗したことにしています」
「水沢以外の観測所のデータもチェックしろ。他国が気づいたか知りたい。
データの解析が終るまで試験は延期だ」
官房長官はうなずいた。
麻田総理
「無人探査機をアポロ15の場所に飛ばせ、いや急すぎるか?
母船を離れた場所に下ろして予備の探査機を向かわせるべきか検討させろ」
「予算を、確保します。
表向きは、重力理論、電離圏・大気モデルの精密検証
裏は、高精度測位兵器補正と弾道ミサイル軌道検証
隠すのはモノリス」
総理は、それを見て、小さく頷いた。
「水沢の所長には」
「吉田所長には、引き続き現場の指揮を」
「分かった」
総理は、資料を閉じた。
そして、誰に向けてでもなく、静かに言った。
「呼ばれているのなら——応えるしかないでしょう。アポロは8年、いや水面下ではその前から」
会議室の誰も、何も言わなかった。




