継承宣言
京セラドーム大阪
在日アメリカ人臨時総会
京セラドームを埋め尽くした人々は、静かに壇上を見つめていた。
星を51に増やした星条旗。
失われた祖国を忘れないための旗だった。
観客席を埋めるのは在日アメリカ人だけではない。
各国外交団。
在日企業家。
報道関係者。
そして、日本政府関係者。
総勢五万人を超える人々が、この歴史的瞬間を見守っていた。
壇上へ一人の男が歩み出る。
ロバート駐日大使。
会場に大きな拍手が響いた。
彼はしばらく沈黙し、やがて口を開いた。
「本日、我々は歴史上かつてない決断を下します」
「我々は本日、この場において、旧世界アメリカ合衆国の継承を宣言します」
巨大スクリーンに文書が映し出される。
アメリカ合衆国臨時政府設立宣言
一、我々は旧世界アメリカ合衆国の継承国家であることを宣言する。
一、我々は合衆国憲法の基本原則を継承する。
一、我々は自由と民主主義を維持する。
一、我々は全てのアメリカ国民の帰還の権利を保障する。
会場が総立ちになる。
歓声。
拍手。
すすり泣く声。
ロバートは続けた。
「臨時政府所在地を――神戸沖、新六甲アイランドに定めます。その名も、リトルアメリカ」
再び歓声。
巨大スクリーンに完成予想図が映る。
人工島。
行政区画。
港湾。
大使館街。
国際学校。
金融センター。
そして海沿いに建設予定の大統領府。
まるで未来都市だった。
「また、本総会は私ロバート・ウィルソンを、大統領代行として選出する提案を受理しました」
電子投票結果が表示される。
賛成 72・6%。
反対 21.8%。
棄権 6.0%。
ロバートは静かに頷いた。
「謹んで受諾します」
会場は再び拍手に包まれた。
次に、軍服姿の一団が壇上へ現れる。
在日米軍司令部。
そして、陸、海、空、海兵隊の各代表達。
司令官が敬礼した。
「在日アメリカ軍を代表し宣言します」
「本日をもって、在日アメリカ軍は臨時政府への帰属を宣言します」
どよめきが広がる。
「我々はアメリカ合衆国軍人として、合衆国臨時政府への忠誠を誓います」
再び大歓声。
数千人が立ち上がった。
彼らにとって国家とは、地図ではなく共同体だった。
その共同体が今、この場で再生したのだ。
続いて司会者が告げる。
「続きまして、日本国内閣総理大臣より祝辞をいただきます」
麻田総理大臣が演壇へ歩み出た。
「本日、日本政府を代表し、お祝いを申し上げます。
我々は皆さんを難民として見ておりません。
皆さんは我が国の友人であり、同盟国の国民です。
祖国を失った悲しみは、我々には完全には理解できないかもしれません」
総理は言葉を区切った。
「しかし日本は約束します。
皆さんが再び立ち上がるための場所を提供します。
新六甲アイランドが、リトルアメリカが、自由を愛する人々の新たな故郷となることを願っています」
総理は深く一礼した。
続いて、今度は財界人たちが次々と登壇した。
「我が社は新六甲アイランドへ国際金融センターを建設します」
「国際空港連絡ターミナルへの投資を表明します」
「アメリカンスクールを設立します」
「五つ星ホテルを新たに建設します」
「ニューヨーク証券市場代替施設を整備します」
「本社機能の一部を移転します」
歓声に次ぐ歓声。
いつしか会場は総会ではなく、建国祭のようになっていた。
ロバートは壇上脇からその光景を見つめていた。
祖国は失われた。
だが。
人は残った。
企業も、軍も、文化も残った。
ならば国家もまた作り直せる。
「アメリカは終わらない」
その言葉に応えるように、京セラドームを埋め尽くした数万人の歓声が、天井を震わせた。
京セラドームの天井には、星が五十一個になった星条旗が映し出されていた。




