ニューサンフランシスコ州暫定居住区
サンフランシスコ郊外
ニューサンフランシスコ州暫定居住区
輸送機の扉が開いた。
ペンベルトン達は、ゆっくりとタラップを降りる。
潮の匂いがした。
遠くに見えるのは、灰色の海。
そして、古びた木造の桟橋。
港町だったのだろう。
「ここが、ニューサンフランシスコ州です」
案内役の女性が答えた。
「我々は収容されるのではなかったのか」
女性は困ったように笑った。
「違いますよ。皆さんは自由です。
真珠湾の件は、こちらの誤解による事故です。
改めて謝罪します。
皆様は、メリケン合衆国国民として、全ての権利と一部の義務を負います。」
ペンベルトンは眉をひそめた。
ハワイで艦隊ごと拿捕されてから数か月。
尋問もあった。思想調査も受けた。
だが暴力はなかった。
そして今日。この町へ送られた。
女性は4階建てのマンションを指差した。
「こちらがお住まいになります」
軍人宿舎よりは狭そうだった。
「家賃、光熱費は、州が負担します。食事は食堂に用意します。」
ペンベルトンは無言になった。
隣で同じく降ろされた元乗組員たちも戸惑っている。
女性は続けた。
「働きたい方は働けます。働かなくても、生活できます」
誰かが小さく呟いた。
「社会主義か?いや、福祉国家なのか?」
誰も正解を知らなかった。
・・・
町を歩く。
人口は10万人ほどだろうか。
海辺の商店街、カフェ、雑貨店、公園。
若い女性しかいない。
すれ違う人々が自然に挨拶してくる。
「こんにちは」
「ようこそ」
「困ったことがあれば言って下さい」
ペンベルトンは混乱した。
敵国民ではないのか。
少なくとも彼らはそう認識していた。
だが町の住民たちは違うらしい。
港近くのベンチに腰を下ろす。
隣に女性が座った。
「第七艦隊の人?」
ペンベルトンは警戒しながら頷く。
「そうだ」
やがて女性が聞いた。
「家族は?」
「妻と娘が二人いる」
「連絡取れた?」
「まだだ」
女性は小さく頷いた。
「早く話せるといいわね」
・・・
夕方。
居住区の集会所の通信室。
元乗組員たちが順番待ちをしている。
壁際には十数台の端末。
利用時間は一人十分。
回線は限られていた。
順番が来る。
妻の顔が映った。
ペンベルトンは言葉を失った。
向こうも同じだった。
「あなた……」
妻の目から涙が溢れる。
「無事だったのね」
ペンベルトンは必死に平静を保とうとした。
だが無理だった。
「すまない」
最初に出た言葉はそれだった。
「帰れなくて」
妻は首を振る。
「生きていてくれただけでいい」
画面の端から娘が飛び出してくる。
「パパ!」
「パパ!」
思わず笑みが漏れた。
十分はあまりにも短かった。
通信終了の表示が現れる。
最後に妻が言った。
「私たち、そっちへ行けるかもしれないの」
ペンベルトンは顔を上げた。
「何?」
「まだ分からない。でも移住制度ができるかもしれないって」
通信は切れた。
通信室を出る。
廊下の掲示板に紙が貼られていた。
『家族移住相談会』
『住宅取得支援制度』
『配偶者就職支援』
・・・
夜。
海辺の町には静かな灯がともっていた。
遠くから波の音が聞こえる。
ペンベルトンは住宅の窓を開けた。
故郷ではない。
祖国ですらない。
だが牢獄でもなかった。
この町は何なのだろう。
彼にはまだ分からなかった。




