外伝 転生者 直樹④
学校に入って数年経った。
数年ってのは数年。事情は察してほしい。
この頃には上級生はまとめて一つにされる。
だから、同級生って概念も余りない。
登校しても、やることは、雑談、トランプ、オセロ、読書、キャッチボールぐらい。
ほとんどが昼で帰る。この頃には自分たちの立場をみんな理解する。
俺達の将来は”高級ホスト”だと。
皆、肌は白く、髪は艶があり、姿勢が良い。
しかも顔立ちまで似ている。
F6 Ver.の美形化した六松が十人並んでいるような光景だった。
不健康そうな奴も、太った奴も、目つきの悪い奴もいない。
みんな穏やかで、礼儀正しく、知的だった。
運動神経は飛び抜けてはいないが、全員が平均以上。
暴力的な奴もいない。
成績で他人を見下す奴もいない。
性欲は高い。
そこだけは、笑えないくらい高い。
ちなみにBL的な展開は一切なかった。
まあ、理解はしている。
貴重な男を、性格の悪い不潔なデブに育てるはずがない。
この世界の男は、生まれた瞬間から徹底管理だ。
食事、睡眠、衛生、情緒、教育、運動
全部が管理されていた。
俺たちは「人格形成」されたのだ。
女目線での理想の男として。
優しく。
清潔で。
穏やかで。
適度に知的。
攻撃性は低く。
しかし虚弱ではない。
話を聞いてくれて。
女性を不安にさせない。
長年同じ環境で育てられたせいか、妙な同調圧力がある。
普通に仲は良いが、それだけだ。
絆を深める様なイベントはない。
一緒に、だらだらしてるだけでは他人のままなのだ。
結局、最後まで女の子達は現れなかった。
この邪馬台国には、そもそも共学校という概念自体が存在しないらしい。
祭りや儀式で遠目に女性を見ることはあっても、同年代の名家のお嬢様と会話したことすらない。
幼なじみ美少女も、気の強い許嫁も、転校生イベントもなかった。
転生したなら、もう少しこう、サービス精神というものは無いのか。
そして、大人になった。何才かは敢えて言わない。
男は、あれが出来る様になったら大人扱だ。精役任務に就かされる。
卒業?知らない言葉ですね。宗教用語ですか?
精役任務、やることは単純だ。
“おせっせ”を頑張る。
国家公務員として。
人生設計として。
文明維持装置として。
退役は四十才、または一万回達成時。
数字だけ見るとソシャゲの実績解除みたいだが、わりと洒落にならない。
最初に説明を受けた時、俺たちは妙に静かだった。
誰も笑わない。
誰も怒らない。
幼少期から少しずつ、「そういう人生」だと理解させられてきたからだろう。
同級生の一人が真顔で、
「一万回って、何年かかるんだ?」
とか言い出して、全員で無言になった記憶だけはある。
時間は余るから、芸術、学問、執筆活動がお勧めだと言われた。
研究職とか、行政とか、教師とか、そういうのは駄目なのか。
まともな仕事はさせる気ないのか。そういう能力もないのだが。
女性ばかりの職場を訪問して慰撫する仕事とか無いのかと聞いたら、教官に怪訝な顔をされた。
何のために?と言われて、俺は少しだけこの世界が怖くなった。
給料は高いのか低いのか、よくわからない。
“おせっせ”一回で三万円。
自分の子供が生まれたら、一人につき一万円の祝い金。
年金は生まれた子供の数に比例。
酒は禁止。旅行も許可制。
金だけが無意味に貯まっていく。
皆、優しい。
優しいのだ。
だからこそ息苦しい。
ガラスの牢屋という表現が、一番近かった。
そして、“おせっせ”のお相手は、全部、国か実家が決めている。
拒否権は形式上存在する。
だが、実際に拒否する男はほとんどいない。
というより、拒否するように育てられていない。
相手を選ぶ基準がない。
顔はみんな似ている。美人ばかり。
不潔な子なんてのもあり得ない。
しゃべったこともない相手との15分の行為。
だれでも一緒だ。勝手に決めてくれた方がいい。
名家の女性相手は色々違うらしいけど面倒が多いらしい。
確率も低いし、生まれても一人分だからという理由で人気が無いらしい。
最初のお相手は、名家の姫様というには年配の女性だった。
三十前後だったかな?。
緊張していた俺に、その人は静かに笑って、
「そんなに怯えなくていいのですよ」
と言ってくれた。
いい初体験だった。
少なくとも、俺はそう思っている。
最初の1か月くらいは、名家の女性ばかりだった。
若い人は少なかった。
二十代後半から三十代が中心。
皆、驚くほど落ち着いていた。
それだけでかなり救われた。
男用のサロンはある。顔を出す奴は少ないのだが。他の名家出身の男もいた。
血が濃くなりすぎないようにするためらしい。
希望を出せば勤務地を変えることも考慮してもらえるらしい。
逆に一方的に勤務地が変わることもあるみたいだけど。
何のために?それを誰も大げさに語らない。
この社会では、男は個人である前に“資源”だからだ。
そして、本当にこの世界の歪みを知るのは、普通の女の子の相手をするようになってからだった。
名家の女性たちは、まだ余裕があった。
教育もある。
地位もある。
誇りもある。
だが、一般の女性たちは違った。
初めて会った二十才くらいの女の子は、俺の顔をまともに見られなかった。
手が震えていた。
声も震えていた。
まるでアイドルではなく、神様に会いに来たみたいだった。
部屋に入った瞬間、泣き出す人もいた。
終わった後、髪の毛を一本くださいと言われたこともある。
自分から出しはしないが、希望すれば写真を渡している。
そこまでしてやるのは珍しいらしいが、スマホ持ち込めるわけじゃ無い。
前世の記憶が、思い出にはアンカーが必要だと告げている。
女の子に本名を言うのは禁止。源氏名かよ。ますますホストみたいだ。
そして、相手の女の子のことをノートにかいている。
名前、年、あとは何かを1~2行。
「おやつの干し柿をあげたら泣いて喜んだ」とか、そんな程度のこと。
書くことがそれぐらいしかないんだ。




