外伝 転生者 直樹①
七歳の夏、私は一度死にかけた。
三日三晩、四十度を超える熱にうなされ、生と死の境界を漂っていた。そして、目を覚ましたとき、私はもはや以前の「私」ではなかった。
天井は淡い飴色の梁が走り、どこか甘い香木の香りが漂っている。窓から差し込む光は柔らかく、障子越しに揺れていた。
私は知っていた。この部屋を、この家を、この人々を。
だが同時に、まったく別の記憶が濁流のように頭の中へ流れ込んできた。
妻と娘。夜間診療の電話。消毒液の匂い。パソコンのモニター。1回だけの家族旅行。末期の大腸がん。
五十五年分の人生。
私は、現代日本で生きていた。そして、死んだ。
その記憶が、熱に焼かれた脳の奥底から、突然、鮮烈に蘇ったのだ。
私の額には冷たい布が載せられていた。
「よかった……直樹。熱が引いてくれた」
直樹は自分のことだ。私の名前は藤堂直樹。母は藤堂家当主の姪だ。
声のした方を見る。母だった。
いや、この世界での母だ。端正な顔立ちの、三十代半ばほどの女性。目の下には濃い隈があり、何日も眠っていないことが一目で分かった。
彼女の背後には、姉、妹。全員が固唾を呑んで私を見つめていた。
その視線に、私は違和感を覚えた。
いや、違和感ではない。もっと根源的な何かだ。
高熱。
臨死体験。
前世の記憶。
周囲の過剰な安堵。
「……ここは」
かすれた声でそう言うと、母は両手で口を覆い、涙をこぼした。
「よかった……本当によかった……」
私はその光景を呆然と見つめた。
「……テンプレかよ」
思わず漏れた言葉に、周囲が一斉に首をかしげた。
何がテンプレか、自分でもうまく説明できない。
多分、男女比が極端な異世界に転生したんだ。




