SS 東西南北③
沖縄本島南部――みーぱるビーチ沖。
東は、波間に浮かびながら前方を見る。
宝来島。
男が溢れる国。
肉と砂糖と白米が尽きない国。
そして――敵国。
耳元で、水中スクーターの駆動音が低く震えている。
音祢花隊長のハンドサイン。”停止せよ”
東たちはスクーターから手を離す。
海中へ沈んでいく機械の影。
もう後戻りはできない。
北が小声で言った。
「……ほんまに行くんやな」
西が苦笑する。
「ここまで来きたら進むしかない」
南は妙に明るかった。
「男の人、いるかなぁ」
東は何も言わなかった。
胃の奥がずっと気持ち悪い。
腹の中を素手で掴まれて揺さぶられるような感覚が、まだ消えていなかった。
音祢花隊長の声。
「これより上陸する。両手を上げろ。絶対に走るな」
誰も返事をしない。波の音だけが聞こえる。
やがて、足先が砂に触れた。浅瀬だ。
南が、小さく笑った。
「暖かい海やな」
東たちは、ゆっくり立ち上がった。
裸の身体を夜風が撫でる。
全員が両手を上げる。まるで降伏だ。
東は浜辺を見る。
空に浮かぶ小さな機械。ドローン。
「止まってください!」
空から日本語が響く。機械音声だった。
続いて中国語。
「あなたたちの所属と目的を答えてください!」
音祢花が打ち合わせ通りに叫ぶ。
「観光客ですー! 泳いでたら迷いましたー!」
西が横で吹き出しそうになる。
北は真顔だった。
東は、日本兵を見た。
ほとんどが男。だが、邪馬台国の鬼女が5人いる。
手前にも無人の機関銃が並んでいる。
男達が銃を構えてこちらを見ている。
だが、撃たない。
敵鬼女は刀に手を置いているが抜いてはいない。
そのことが逆に恐ろしかった。
**********************************************
同時刻。みーぱるビーチ防衛部隊
島隊員
「状況3。裸で両手を上げて歩いてきます。」
真田隊長
「裸の美女なのにホラー映画より怖いな。予定通りドローン飛ばして先ずは日本語、次に中国語で正体と目的を確認。それからバスタオルと缶コーヒーの準備も。」
鬼女アヤメ
「機関銃で撃ち殺すべきです。私が責任取りますからスイッチ下さい。」
真田
「アヤメさん。美人なのに殺意高すぎます。一応、まだ民間人扱いですから。」
島
「全部で80人。観光客。プライベートビーチで泳いでるうちに迷子になってここに着いたと。水着を着てないのはそういう趣味だそうです。」
アヤメ
「ふざけてます。すぐに殺しましょう。私がやります。」
真田
「走らなければ撃たない様に上から決められてますので。すいません。気持ちはわかります。でも、日本は優しい国なんです。そんなこと言わずにハレンチな女性達にバスタオル配ってあげて下さい。私たちだと裸の女性に近づけないので。」
**********************************************
ビーチに近づく北中国の鬼女達
浜辺へ近づくにつれ、東は奇妙な感覚に襲われていた。
男たちの視線だ。
警戒と困惑と、ほんの少しの憐れみ。
そんな目で見られたことはなかった。
敵の鬼女が近づいてくる。敵意を隠そうともしない。
タオルを投げつけてくる。
スマホ(快点遮住自己。别喜欢在男人面前炫耀你肮脏的身体。你这个变态。:早く体隠せ。汚いもの男に見せて喜んでんじゃねーよ。この変態。)
だが、タオルの柔らかさで邪馬台女にさえ感謝したくなる。ツンデレか?
次に男が近づいてきた。暖かい缶コーヒーをくれた。
「甘っ……!」
目を見開く。初めて口にした砂糖は脳を溶かす。
東は地面に座り込んだ。目まいがしていた。
男が近づく。
「大丈夫?」
東は男の手を借りてゆっくりと立ち上がった。どさくさ紛れに抱き着いた。ついでに尻も揉んでいた。
男は驚いて体を離した。それから、男は近づいて来なくなった。代わりに邪馬台女がそばにきた。東め、美味いことやりやがった。
その後、窓を塞がれたバスに乗せられて20分。東たちは小学校の体育館にいた。
北
「痛~い。もっと優しくして! せめて男に代わってよ!」
アヤメは、スマホの画面を北に向けた(少他妈胡扯,我弄死你,丑女:ざけんな。殺すぞブス)
そして、男にむかって
「何も隠してません。次の人お願いしま~す。」
あの女は性格が悪い。いや普通か。私なら足ぐらい踏んでたかもしれない。
そして、身体検査が終わると寝間着を渡された。
校庭の炊事車で何か作っている。ここまでいい匂いがしてる(ような気がした)
主菜 魚チャンプルー
サバ、卵、木綿豆腐、ニラ、モヤシ、キャベツ、ニンジンを炒めて、醤油と味の素で味付け。
3種類のたんぱく質と4種類の野菜。醤油と化学調味料。
しかも、男の手料理。もう一度繰り返す。男の手料理
汁もの 豆のスープ
緑豆をメインに春雨、大根、干しシイタケ、小松菜。鶏ガラスープ入り。ゴマ油の香り高い贅沢なポタージュ。
これも男の手料理。
主食 白米
コシヒカリ。驚きの白さ!日本の誇り(実は古米)
男がよそってくれた。しかも、大盛りにしますかって聞いてくれた。
あまりに豪華、予想の遥か上、雲の彼方、天上人の御膳。
普段の1年分の食事とこの1食なら、迷わずこの1食を選ぶ。
例え最後の晩餐と言われても納得して死ねる。
ってゆうか、この数時間で一生分の幸福がきた気がする。
この素晴らしい作戦を考えた人に勲章をあげるべきだと思う。
南
「一生ここで暮らそう。脱走なんてバカの考えることだ」
北
「同意。ここは楽園」
西
「邪馬台女の殺意のこもった視線でさえ心地いい」
方々から食事の賞賛、初めて会った男の優しさを讃える声が聞こえる。
食事の後、少人数に分けて教室に移された
深夜の教室。
南は考えていた。
体調を崩していた東は巡回中の日本人に連れていかれた。病院で治療して貰えるらしい。
良かった。少なくとも一人は生き残れる。
状況は確認した。スプリンクラーはダミーだった。中身はガス噴射器。麻酔ガスか催涙ガス。
窓ガラスは内外からガムテープで補強。割れなくしていた。だが、窓枠ごと壊すのはたやすいことだ。
ここは3階。暗闇で飛び降りるのは危険。地面にマキビシあったらお終いだ。サーチライトの方が都合良かったがしかたない。
優しい男、極上の食事、上等な服
捕虜(名目上は身元不明の遭難者)の生活が素晴らしすぎる。
南は思う。いったい何人の仲間が本気で脱走する気だろうか?
運よく脱走出来れば……男を攫って祖国に帰れるかもしれない。
元から運のない私たちだ。今日一日で一生分の運を使い果たしたハズ。
明日は運悪く失敗してもおかしくないハズだ。




