SS 東西南北②
沖縄沖 貨物船「しらぬい」偽装船倉内
偽装用コンテナの奥、鉄骨と結露に囲まれた薄暗い空間に、百人の鬼女たちが肩を寄せ合って座っている。
その中で、出撃を待つ東西南北の4人を含む100人の鬼女達。
「……最後の晩餐が乾パン二枚って、軍隊としてどうなん」
「贅沢言うな。上陸後は“現地調達”やぞ」
「この作戦を考えた奴の頭の中を見てみたい。物理的な意味で!」
「史上初! 敵前全裸非武装上陸作戦! こんなもん誰も考えつかんわ。」
「どこの世界に沖縄へ全裸遠泳してくる観光客おるねん」
「メリケン女が似たような事を一昨日やって成功したらしい。全裸突撃空母制圧作戦。それで、こっちの上層部も真似することにしたとか。」
「こんなん、軍事作戦と言わんわ。私ら露出狂と違う。」
「歴史の教科書に載るかな」
「載るわ。“世界初の全裸無装備敵前上陸”って」
「軍事史の恥やん」
「でも成功したら英雄」
「失敗したら?」
「変態」
また笑いが起きる。だが、その笑いは今度は少し長く続いた。
極限状態では、人間は案外どうでもいいことで平静を保つ。
「裸の女が海から『男寄越せ~』って這い上がってくる絵、想像してみ、私なら銃乱射する。」
「銃を武器庫に戻したの、作戦よりも反乱防止のためちゃうか?」
「せめて、ナイフぐらいは残してくれたら良かったのに」
「上官刺すのか?殴るぐらいならOKだぞ。懲罰作戦の出撃前だからな」
「男に裸見せるんだったら,,,,,,ムダ毛ぐらい処理したいやん」
「コンバットナイフでムダ毛の処理する可憐な乙女。シュールやわ」
彼女たちは鬼女だった。
この世界で最も過酷な訓練を受け、最も危険な仕事を押し付けられ、
そして最も男から遠い場所に置かれる存在。
音祢花隊長
「最終確認。5人一組で、目的地は、現地名”みーぱるビーチ”、水中スクータで沖合5kmまで接近。スクーターとシュノーケルを破棄し、泳いで目的地に接近。浅瀬に着いたら両手を上げ、ゆっくり歩いて陸に向かうこと。手を下ろしたり、走ったりしてはならない。迷い込んだ中国人観光客を名乗ること。裸なのは”開放的だから”で通せ。軍の品位を貶めるような言動をとってはならない。間違っても性的なニュアンスは口にするな。敵と接触後は敵の指示に従え。敵に拘束されてもかまわない。スキを見て脱走し部隊に合流するか、別動隊の救出を待て。1~20班は上陸組。21~25班は結果確認と上陸班の脱走援護に回る。質問はあるか?」
東
「もし、上陸中に銃撃を受けたら?捕虜になれるんですか?」
音祢花
「投降を許可する。すまん。私が先頭に立つ。許せ」
船がゆっくり減速を始める。
ざわめきが止まる。誰もが無言で立ち上がった。
水中スクーターが並べられる。
兵士たちは慣れた動作で装備を確認する。といってもシュノーケルと水筒だけだが。
沖縄近海。
月は雲に隠れている。暗い海だ。
兵士たちは次々と海へ降りていく。
黒い水面に、小さな波紋だけが広がる。
東
「せめて、男を見てから死にたい。できれば触りたい。」
南
「最後の任務が男に裸で助けを求めること。……ほんま、終わってる世界やな」




