EP-16 輸入再開(Day+50)
■ アラブ政府高官視点
アラブ政府高官は、珍しく機嫌が良かった。
机の上に並ぶ合意文書を、指先で軽く叩く。
自動車1000台の無償供与。
整備要員としての男性技術者の常駐。
アンモニア合成プラントの建設。
そして——
年間50万人規模の「接触合意」。
どれを取っても破格だった。
いや、正確には。価値の尺度が違う。
男。
そして——肥料。
男は国家そのものを変える。
肥料は国家を支える。
(空気からアンモニアを作る、だと……?)
報告書の記述が、脳裏に蘇る。
窒素固定。
大気中の窒素を直接利用。天然ガスから肥料を無尽蔵に生産。
それは単なる技術ではない。飢餓の上限を消す技術だ。
この世界には、まだ存在しない概念。ゆえに実感が伴わない。
喉の奥で、小さく笑う。気分が良くなったのは、その時だった。
つい、口が滑った。
「礼はする。タンカー1隻分、無償で供与しよう」
軽く言葉を重ねる。
「どうせなら、一番大きな船で来るといい」
その場はそれで終わった。
数週間後。報告が上がる。
「日本側、入港予定」
一瞬の沈黙。
「……三十万トン級VLCC。超大型原油タンカーです」
(……十万トン級のつもりだったがな)
「……受け入れろ」
短く命じる。
「港を空けろ。最優先だ」
部下が動き出す。
一人残った執務室で、彼女は小さく呟いた。
「……高くついたか、いや、あの国の実力が見れた。よしとしよう。」
その言葉は、もはや確信だった。




