EP-14 よろしくない(Day+43)
駐邪馬台国フランク大使館
ジャンヌ大使は絶望していた。
日本はフランクを知り尽くしているのに、我々は日本を何も知らない。よろしくない。
邪馬台国の日本大使館での初会合。
前半は良かった。良すぎるぐらいだった。
フランス語を話すハンサムな男性外交官。
知的な会話と洗練された態度。
この様な男性が日本に存在するとは、
生殖資源へのアクセス確保。
アンモニア合成法も交渉に乗せれた。
ワイン、チーズ、生ハム、バターがドイツより素晴らしいと言った。文明人だ。
在日フランス人も本人の同意があればフランクへの帰国を認めると。
そこまでは良い。白人でない以外の欠点が見つからない。
いや、母君はフランス人。貴族に相違あるまい。実質フランス人だ。
だが、ランチ。ここからがよろしくない。
【松花堂弁当箱ーフレンチ仕立て】
左上 鴨のタタキと山葵コンソメジュレ 炙った鴨の脂と山葵の清涼感を透明なジュレで封じ込めた先付。
右上 真鯛のポワレ 〜白味噌のブールブラン〜。白味噌とバターの乳化ソースを、食べやすいムース状で添えて。
左下 和牛ローストと溜まり醤油の煮こごり 低温調理した和牛に、濃厚な赤ワイン醤油ソースを煮こごり風にして鎮座。
右下 アサリと山菜のリゾット あおさ海苔の磯の香りとチーズのコク。
【別盛り・デザート】
スープ:子牛と利尻昆布のダブルコンソメ 仕上げにスダチの皮を浮かせた、黄金色の極上スープ。
ブレッド:ルヴァン種使用のバゲット 。バターはエシレ。
デザート:抹茶の葛寄せ & 季節の果実のヴェリーヌ 抹茶の香るプルプルの葛寄せに、あまおうとシャインマスカットを重ね、シャンパン・ジュレで軽やかにまとめた宝石のような一品。
専属ソムリエの推奨:樽発酵・熟成甲州ワイン
純米吟醸
ブルゴーニュ産ピノ・ノワールの上級品(Premier Cru以上)
完璧すぎる。男が多いだけの邪馬台国の同族と思って侮っていた。
美味い。独創的だ。しかし、フレンチ。我々の文化を完璧に理解している。
パリの三ツ星でも勝てそうにない気がする。特にフォンの出来が良い。今までで一番良い。
牛肉が良い。とろけそうだ。ソイソースと赤ワインのソースが独創的だ。
バケットもルヴァンだ。イーストじゃない。
イチゴとブドウが素晴らしすぎる。大きさ、色、香り、甘さ、驚きだ。
日本を招いて晩餐を行わなければならない。
本国からシェフと食材を取り寄せる。それは決まっている。
ボルディエの手練り発酵バター(海藻入り)海はフランスにもあるのだ。
ブレス産鶏(AOP)、青い足、白い羽、赤いトサカ。フランス国旗を象徴する鶏。
ブリア・サヴァラン・ア・ラ・トリュフ。黒トリュフの大地の香り。背徳の味
しかし、日本のテイストを組み込める自信がない。困った。
仕方ない。せめてフォンとソイソースだけでも邪馬台国に聞いてみよう。響子には貸しがある。
いや、かの国に食文化のバックボーンは?
いや、なぜフレンチを知っているのだ?
ピノ・ノワールはどこで手に入れた?ブルゴーニュだった。しかし、知らないブルゴーニュだ。
日本人シェフのフランス語は訛りはあったが正しかった。
我々に日本のレシピを読める料理人はいるのか?
この日本人なら我らのフレンチの精髄を絶賛してくれるだろう。
我らの努力を正当に、褒めて欲しいところを褒めてくれるだろう。
素材の素晴らしさを、技術の確かさを理解してくれるだろう。いや、既に理解している。
それでは彼らの手の平から出れないのだ。
よろしくない。我々も日本料理を手にしなければならない。
世界最高のフレンチが他の料理を必要としている。
よろしくない。よろしくない。
チェスに負けたものよろしくない。書記のマリーは国内19位の実力者だ。
しかし、日本の若い書記官相手にラピッドゲームで2連敗。
序盤で不利になっていた。中盤で相手にミスがない。マリーの1ミスで一気に決められてしまった。
次はチャンピオンのマダム・メグを呼んでリベンジする。
そこで負けたら日本のお願いを一つ聞くことになる。
困った。報告書は良いことばかりなのにフランクの誇りが・・・よろしくない。
同席していた大使館の料理長が呆然としている。この大使館で出せる料理が無いと泣いている。でも嬉しそうなのが、よろしくない。日本人シェフと連絡先交換してたよな。大変よろしくない。いろいろな意味でよろしくない。
マリーもだ。対戦相手の子種でチャンピオン作るとか妄想してる。おまえ30こえてるだろ?年下とか無理だろ。本当はチェス関係ないだろ?
C’est pas possible ! ゲームに勝ったらデート(意味深)の約束だと!それ、うらやましい。いや、よろしくない。
それより報告書だ。
日本国大使のポストはまだ決まってない。
片言でも話せる上級外交官は私だけだ。
・・・かの国では35才でも性的対象になるらしい。私に子はいない。彼ならフランク人と同じだ。
いや、ダーリントラップだろ。これは、祖国への忠誠を忘れるな。でも日本大使がセクシーすぎる。
・・・よろしくない。いや、優秀な子種は祖国に繫栄を。いや、よろしくない。
外交機密報告書:第402号
宛先: フランク王国 外務省・美食文化統括局
発信: 駐邪馬台国 フランク大使 ジャンヌ・ド・ロレーヌ
件名: 日本国との外交的・文化的接触に関する中間報告書
本文:
本会合において、我が国の生殖資源確保およびアンモニア合成に関する技術交渉は、極めて順調に推移していることを報告する。交渉相手である日本国の外交官たちは、驚くべき知性と洗練を備えており、我々フランクの文化を深く敬愛していることは疑いようがない。
しかしながら、特筆すべきは午後のランチタイムにおける「知的興奮」である。
彼らは、我々フランクの誇るガストロノミーを極めて詳細に研究し、それを日本の四季の理と融合させるという、かつてない試みを披露した。その完成度は、正直に申し上げれば、パリの三ツ星の厨房においてさえ、静寂が訪れるレベルである。
特に、出汁の抽出技術(フォン・ド・ヴォーと利尻昆布の昇華)は、我々が長年培ってきたフランス料理の古典を、新たな次元へと押し上げている。彼らの料理は、伝統を継承するだけでなく、それを解体し、再構築するという、我が国の美食家たちが最も忌避し、かつ最も憧れる「創造の狂気」を孕んでいる。
チェスに関しては、彼らの正確無比な計算に我が国のマリー書記が苦戦を強いられた。これは彼らの社会に根付いた「論理的秩序」が、我々の想像を遥かに超えていることを示唆している。
現在、我が館の料理長は、彼らの技術と対峙するべく、すでに次なる晩餐会の構想に取り掛かっている。
私は本国に対し、日本国への「文化的な介入(いわゆる相互交流)」を推奨する。彼らのフォン(出汁)の秘密を我が国の調理法に取り込むことは、フランクの美食を次世代へと導く不可欠なステップとなるからだ。
彼らに敗北を認めることはない。我々は今、新たな「美食のフロンティア」を共に開拓しているのだ。
日本国を招く晩餐会に備え、最高級の食材と、王室に伝わる秘蔵のワインの移送を早急に手配されたい。
なお、マダム・メグの投入により、次なる戦い(チェス)での勝利は確実であると申し添える。




