表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/136

大統領の悩み

ホワイトハウス、大統領執務室。

執務室には、ドロシー大統領、国務長官ナンシー、大統領補佐官キャサリンの3人だけが残っている。


大型モニターには、月へ向かう2つの光点が映し出されていた。

1つはメリケンの月航行船――**ワイバーン**。

そして、そのわずか2時間後に地球を離れた、日本の月航行船――**月兎**。

2隻は、ほぼ同じ軌道をたどりながら月を目指していた。


キャサリンがモニターから目を離さずに言った。

「月へは我々が先に着きます」


ドロシーは静かに頷いた。

「ええ。それはいいことよ。結局、追加の無人探査機は南極にしか送れなかった」


彼女は月面地図を指先でなぞる。


「アルテミス計画の南極基地を確認できたのは大きな成果。でも、日本の本当の目的地はどこ?」


画面には、いくつもの印が表示されている。

アポロ11着陸地点。

謎の月着陸船「KAGUYA2」と旧世界の月面車「ルナクルーザー」。

そして、南極基地。


「それとも……私たちの知らない場所があるのかしら」


キャサリンは資料をめくった。

「今回、月面へ降りるのは双方とも一人です。活動時間も最大8時間。南極基地を本格的に探索するには短すぎます」


ドロシーは即座に答えた。

「分かってるわ。合理的に考えれば、今回はKAGUYA2。南極基地は次回。それが自然な判断よ。

でも、もし目的が最初から決まっているなら、8時間でも十分。必要なものだけ回収して帰ることはできる」


ナンシーが口を開いた。

「まさか、日本は後をつけられたくないから、わざと我々を先に行かせた……と?」


ドロシーは苦笑した。

「そこまでは思いたくないわね」


そして、少しだけ間を置く。


「もちろん、最終手段はある。でも、それをやったら北中国の誰かさんと同じよ。

指揮官として最低だわ」


静かな沈黙が流れた。


やがてキャサリンが新しい資料を差し出す。


「ハワイのハレアカラ観測所から報告です。

日本が月面へ設置したコーナーキューブのレーザー反射実験は、明日から開始できます」


「それから、大型受信機の試験運転中、日本上空で短時間のプラズマ発光を観測しました」


「プラズマ発光?電離層が?」


「はい。昨日から24時間で58回。いずれも月が日本列島のほぼ真上に位置する時間帯です」


執務室の空気が少しだけ張り詰めた。

「いつから観測されたの?」


「ハレアカラで月面観測設備を本格稼働させた直後です。最初は受信機の異常を疑いましたが、複数の装置で同じ現象を確認しています」


ドロシーは腕を組んだ。

「怪しいわね」


短く言い切る。


「艦隊のレーダーでも、宇宙監視網でも何でも使って。可能な限り情報を集めて」


「了解しました」


ナンシーが別の資料を開く。


「もう1点。漢とフランクを中心に、『宇宙条約』制定の提案が始まっています」


「内容は?」


「宇宙の平和利用、活動の透明性、遭難時の相互支援、科学データの公開、歴史的遺産の保護などです」


ドロシーは静かに頷いた。


「各国の反応は?」


「日本は大枠で賛同しています。現在、賛同国は20か国を超えました」


「思ったより早いわね」


ドロシーは小さく息を吐く。


「月へ向かう競争は始まったばかりなのに、もうルール作りまで始まるなんて」


そして立ち上がり、窓の向こうに浮かぶ月を見つめた。


「本当に大変ね」


静かに微笑む。


「明後日の月着陸は、パトリック空軍基地で見るわ」


ナンシーとキャサリンが顔を上げる。


「それから、日本の村上総理との会談を早めに調整してちょうだい」


「月から帰ってきた直後でも構わない。話を聞かなければならないことが、山ほどあるもの

特に日本の月兎げっとが何を”Get”したのかを」


二人は静かに頷いた。


窓の外、高く昇った月は何も語らない。


その静かな光の下を、2隻の月航行船が、わずか2時間の差で同じ目的地へ向かっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ