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月航行船ワイバーン

月航行船ワイバーン

https://img1.mitemin.net/hq/85/dqncu6gkspiks9bcejegfh572ch_twr_11m_wa_19pt4.png.580.jpg


月航行船「ワイバーン(WYVERN)」

基本諸元

全長:約34 m

最大幅(太陽電池翼端間):約42 m

打上げ質量:約78 t

乗員:2名

月面着陸船:1名用

主エンジン:1基


低軌道を静かに周回する巨大な宇宙船は、地球の青を背にゆっくりと姿勢を変えていた。

それは、まるで翼を広げた飛竜だった。

胴体の左右には、翼のように大きく広がる二枚の太陽電池パネル。

先端には一人乗りの月面着陸船を収めたコンテナ。

後方には四基の巨大なブースターが並び、その中心には帰還まで担う主エンジンが据えられている。

短期間で造り上げられた、メリケン初の本格的月航行船だった。


機体中央には、小さな円筒形の与圧キャビン。

月まで往復7日。

たった二人が暮らす家だった。


ニナ・アームストロング中佐は、ハッチをくぐった瞬間に苦笑した。

「……やっぱり狭い」


ラヴェル・カーター少佐も周囲を見回し、小さく肩をすくめる。

「知ってたけど、実際に入ると想像以上ね」


中央キャビン。

与圧空間は約四立方メートル。

無重量だから上下の区別はないものの、実際には畳一・五枚ほどの床面積しかない。


壁一面に計器。

折り畳み式の座席。

食料庫。

小さなトイレ。

それだけで、ほとんど埋まってしまう。


「寝るときは、ベルトで壁に固定」


「食事だけが、唯一の楽しみ」


「トイレは、人権侵害レベル。抗議したい」


ニナが笑う。

「日本の月航行船は九立方メートルあるらしいよ」


「聞かなきゃよかった」


二人は顔を見合わせ、笑った。

狭くても構わない。

この船は、日本より先に月へ向かうために造られた。


シートベルトを固定する。

通信回線が開いた。


「ワイバーン、月遷移噴射シーケンス開始」


キャロルの落ち着いた声が響く。


「幸運を」


「了解」


ニナが短く答える。

ゆっくりと姿勢制御スラスターが噴射した。

巨大な機体が、月への進路へと正確に向きを変える。


数秒後。


「第一加速開始」


機体後部の大型ブースター二基が同時に点火した。

激しい振動。

身体がシートへ押し付けられる。

地球がゆっくりと後方へ流れていく。

燃焼終了。

空になった二基が静かに分離した。


「第二加速開始」


残る二基が点火する。

先ほどよりも強い加速度。

誰も口を開かない。


燃焼終了。

ブースターが切り離されると、姿勢制御スラスターが細かく噴射し、進路を微調整した。

モニターに航法コンピューターの表示が切り替わる。

月到着予定まで、約七十時間。


ニナは窓の外を見つめた。

青い地球が、ゆっくりと小さくなっていく。

目標は、アポロ11号着陸地点の北十キロ。


そこに静かに眠る、「KAGUYA 2」。


西暦2041年。

13年後の日本を名乗る月面着陸船。

その調査と、可能ならサンプル回収。


ラヴェルが月面へ降りる。

ニナは軌道上から支援する。

少しだけ悔しい。

だが、それが任務だった。

ニナはヘルメットを膝に置き、月を見つめた。


「待ってなさい。」


飛竜は静かに加速を続け、誰も踏み入れたことのない答えが待つ月へ向かっていった。

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