月航行船ワイバーン
月航行船ワイバーン
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月航行船「ワイバーン(WYVERN)」
基本諸元
全長:約34 m
最大幅(太陽電池翼端間):約42 m
打上げ質量:約78 t
乗員:2名
月面着陸船:1名用
主エンジン:1基
低軌道を静かに周回する巨大な宇宙船は、地球の青を背にゆっくりと姿勢を変えていた。
それは、まるで翼を広げた飛竜だった。
胴体の左右には、翼のように大きく広がる二枚の太陽電池パネル。
先端には一人乗りの月面着陸船を収めたコンテナ。
後方には四基の巨大なブースターが並び、その中心には帰還まで担う主エンジンが据えられている。
短期間で造り上げられた、メリケン初の本格的月航行船だった。
機体中央には、小さな円筒形の与圧キャビン。
月まで往復7日。
たった二人が暮らす家だった。
ニナ・アームストロング中佐は、ハッチをくぐった瞬間に苦笑した。
「……やっぱり狭い」
ラヴェル・カーター少佐も周囲を見回し、小さく肩をすくめる。
「知ってたけど、実際に入ると想像以上ね」
中央キャビン。
与圧空間は約四立方メートル。
無重量だから上下の区別はないものの、実際には畳一・五枚ほどの床面積しかない。
壁一面に計器。
折り畳み式の座席。
食料庫。
小さなトイレ。
それだけで、ほとんど埋まってしまう。
「寝るときは、ベルトで壁に固定」
「食事だけが、唯一の楽しみ」
「トイレは、人権侵害レベル。抗議したい」
ニナが笑う。
「日本の月航行船は九立方メートルあるらしいよ」
「聞かなきゃよかった」
二人は顔を見合わせ、笑った。
狭くても構わない。
この船は、日本より先に月へ向かうために造られた。
シートベルトを固定する。
通信回線が開いた。
「ワイバーン、月遷移噴射シーケンス開始」
キャロルの落ち着いた声が響く。
「幸運を」
「了解」
ニナが短く答える。
ゆっくりと姿勢制御スラスターが噴射した。
巨大な機体が、月への進路へと正確に向きを変える。
数秒後。
「第一加速開始」
機体後部の大型ブースター二基が同時に点火した。
激しい振動。
身体がシートへ押し付けられる。
地球がゆっくりと後方へ流れていく。
燃焼終了。
空になった二基が静かに分離した。
「第二加速開始」
残る二基が点火する。
先ほどよりも強い加速度。
誰も口を開かない。
燃焼終了。
ブースターが切り離されると、姿勢制御スラスターが細かく噴射し、進路を微調整した。
モニターに航法コンピューターの表示が切り替わる。
月到着予定まで、約七十時間。
ニナは窓の外を見つめた。
青い地球が、ゆっくりと小さくなっていく。
目標は、アポロ11号着陸地点の北十キロ。
そこに静かに眠る、「KAGUYA 2」。
西暦2041年。
13年後の日本を名乗る月面着陸船。
その調査と、可能ならサンプル回収。
ラヴェルが月面へ降りる。
ニナは軌道上から支援する。
少しだけ悔しい。
だが、それが任務だった。
ニナはヘルメットを膝に置き、月を見つめた。
「待ってなさい。」
飛竜は静かに加速を続け、誰も踏み入れたことのない答えが待つ月へ向かっていった。




