表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/139

月へのカウントダウン

夜明け前のフロリダ。

パトリック空軍基地の発射台は、巨大な投光器に照らされ、白い蒸気を静かに吐き続けていた。


六時間前。

月航行船「ワイバーン」を構成する最後の大型部材を運ぶリバイアサン4号機は、青白い炎を引いて夜空へ消え、予定通り低軌道への投入に成功していた。

残る工程は一つ。


ニナ・アームストロング中佐とラヴェル・カーター少佐を乗せたサラマンダーを送り込み、軌道上で最終点検を終えれば、メリケンの月計画も完成する。

大型モニターには、カウントダウンが映し出されていた。


「10秒前」


キャロルは腕を組み、静かにモニターを見つめている。


シモーヌは管制卓の横で、小さく息を吐いた。

「ここまで来たわね」


キャロルは短く答えた。

「ええ、日本より先に月に行けます」」


ニナはヘルメットを抱えながら笑う。

「今度は爆発しないわよね?」


Dr.フーが肩をすくめる。

「そのために五百本以上打ち上げた。場数は裏切らない」


スピーカーから自動音声が流れる。


「ゼロ」


轟音。


サラマンダーが炎を噴き上げ、ゆっくりと発射台を離れた。


「上昇正常」


「ブースター分離」


「誘導正常」


管制室には次々と報告が飛び交う。


数分後。


「軌道投入」


キャロルが静かに頷いた。


「回転数」


「毎分31回」


「姿勢安定」


キャロルはようやく笑顔を見せた。


「よし」


30分後。


地球を見下ろしながら、サラマンダーは日本の宇宙ステーション付近を通過していた。

窓の向こうに巨大な構造物が見える。


「あれ……」


ニナが思わず声を漏らした。


「日本のステーション」


その少し先には、さらに巨大な宇宙船がゆっくりと地球を周回している。

中央の居住モジュールから長いトラスが伸びている。


「あっちも完成間近ね」


ラヴェルが見入る。


「あの中に若狭さん達がいるのかな」


「たぶん」


通信はしない。

互いに20キロしか離れていない。

それでも、それぞれ別の任務がある。

サラマンダーは静かに日本ステーションを追い越していった。

十分後。


ワイバーン。


巨大なハッチが開き、サラマンダーがゆっくりと接近する。


「相対速度0.02」


「位置良し」


ワイバーンの近くでサラマンダーのカプセルを停止させる。


「ようこそ」


組み立て担当の宇宙飛行士が笑顔で迎えた。

ニナも笑う。

握手が交わされる。


「状況は?」


「98パーセント完成」


「後は最終点検だけ」


ラヴェルは船内を見回した。

まだ配線が剥き出しの場所もある。

工具箱が浮き、壁にはチェックリストが貼られていた。

まるで完成直前の造船所だった。


「やっぱり狭い」


「月まで3日だからね」


「潜水艦の方がマシかも」


笑いが起きる。


キャビンでシステムチェックを進めていると、一人の宇宙飛行士が冗談交じりに言った。


「帰りのカプセル壊して、日本ステーションへ泊まりに行くか?」


ニナは吹き出した。


「また居候?」


「今度は宿泊費も払わなきゃ」


ラヴェルも笑う。


「働き者の美女二人って自己申告は、もう通用しないわね」


「あの日本人達、歓迎してくれそうだけど」


「歓迎はしてくれる。でもキャロルに怒られる」


全員が笑った。

その時だった。

レーダーが日本の燃料タンクの通過を知らせる。

望遠カメラの映像。

全長二十メートル近い銀色のタンク。


「日本の燃料タンクだ。」


誰かが呟いた。

静かに日本の月航行船へ向かっていく。

ニナはその姿を目で追った。


「あれで完成ね。」


組み立て担当が頷いた。


「向こうも、こっちも。」


そしてこちらでは、ワイバーンの最終点検が始まる。

二隻の月航行船。

二つの国家。

互いを意識しながらも、通信はない。

競う相手であり、同じ夢を追う仲間でもあった。

ラヴェルが静かに地球を見つめる。


「次に並ぶのは……。」


ニナが続けた。


「月だね。」


誰も否定しなかった。

青い地球を背景に、日本の月航行船とメリケンのワイバーンは、わずかな距離を隔てて静かに周回を続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ