表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/134

KAGUYA 2

ホワイトハウスの国家安全保障会議室には、いつもの顔ぶれが集まっていた。


ドロシー大統領。

NASA長官シモーヌ。

国務長官ナンシー。

国防長官パメラ。

大統領補佐官キャサリン。

そして、ディアナ計画主任キャロル。


本来の議題は、日本がH3-34Mの打ち上げに成功し、月航行船の軌道上組み立てを開始したことへの対応だった。

だが、その会議は、一枚の写真によって完全に予定を狂わされた。

大型モニターに映し出されたのは、灰色の月面。

その中央には、アポロ着陸船とは明らかに異なる、角ばった近代的な着陸船が静かに立っていた。

船体側面には、はっきりと文字が刻まれている。


『KAGUYA 2 2041 JAPAN』


誰も口を開かなかった。

数十秒に及ぶ沈黙を破ったのは、シモーヌだった。

「日本が旧世界の暦を使い続けていれば、西暦2028年になります」


ドロシーが静かに尋ねる。

「日本の13年後の月着陸船……そう解釈すべきかしら」


シモーヌは首を振った。

「断定はできません。

ですが、日本製であることを否定する材料もありません」


ナンシーが資料を閉じる。

「日本も現在は我々と同じ暦を使っています。西暦は2025年で終わりましたが、令和は継続しています」


ドロシーは腕を組んだ。

「つまり、おかしいのよ。

日本はまだ月面着陸していない。過去の地球から転移したと言っている。

なのに、日本が造っていない日本の宇宙船が月にある。」


キャサリンが小さく息をのむ。

「過去だけでは説明できませんね。」


ドロシーは頷いた。

「ええ、未来かもしれない。あるいは別の世界。」


パメラが低い声で言った。

「ひょっとすると百年後、千年後の宇宙船まで転がっている可能性もありますね。」


その言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。

ドロシーは静かに笑った。

「そう考えると、日本が月を急ぐ理由も説明できるわ。

アポロ11で自国の歴史を確認するためではない。

数百年先の技術を手に入れるため」


シモーヌも頷く。

「そうなら、予算増額も、計画前倒しも当然です。」


ドロシーは窓の外へ目を向けた。

「我が国の状況は。」


キャロルが工程表を映し出す。

「日本は軌道上で月航行船の組み立てを開始しました。二か月後には月へ向かいます。

こちらは、同時期に間に合わせるなら成功率五〇パーセント。

安全を優先して一か月延期すれば、大幅に向上します。」


シモーヌが補足した。

「月の秘密は一か月で消えません。」


ドロシーは即座に首を振る。

その声は静かだったが、強かった。

「最初に手を付けることが重要なの

後から着いても、一番重要なものだけ持ち去られていたら意味がない。

成功率30パーセントでも、戦わずに降りることはできないわ。

問題は、一番大事なものが、どこにあるかだけ。」


キャロルが資料をめくる。

「2か月以内に完成するリバイアサンは7機。3か月あれば12機になります。月航行船は28日後に完成予定です。」


シモーヌが続ける。

「有人1回につき4機は必要です。失敗分を考えると、余裕はありません。」


ドロシーは考え込んだ。

「日本の無人探査機は、どこへ行った?

アポロ11周辺、月の南極、それから裏側。

公開されたのはアポロ11だけ。

つまり、南極と裏側は、まだ何も分からない。

全部調べ直したい。でもロケットが足りない。」


シモーヌが新しい資料を差し出した。

「他にできることで、来月からハワイ天文台でレーザー反射実験を開始できます

先ずは一番観測しやすい、日本がアポロ11付近へ設置した千個の新型コーナーキューブ。

以後、アポロ11の反射鏡、規模の大きいアポロ15、アポロ14、ソビエトのルノホート」


ドロシーは少し考え、静かに首を振った。

「変更しましょう。まだ誰も本気で見ていない場所を優先するわ。アポロ15とアポロ14を先にして」


部屋が静まり返る。

ドロシーは再びモニターへ目を向けた。

そこには、月面へ静かに佇む「KAGUYA 2」が映っていた。

誰に言うでもなく、小さく呟く。

「未来が月に落ちているのなら――答えは、私たちの想像よりずっと先にある。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ