加速する宇宙開発
パトリック空軍基地。フロリダ。
発射台から3キロ離れた管制棟の窓ガラスが、まだかすかに震えていた。
キャロルは腕を組んだまま、モニターを見つめて言った。
軌道投入確認。回転数、毎分31回転。安定。
「サラマンダー20号、軌道周回軌道への投入5連続成功。
次。来週打ち上げのリバイアサンの最終チェック状況は予定通り」
キャロルはコーヒーを一口飲んだ。
満足げだった。隠す気もなかった。
管制室の隅で、Dr.フーが笑いながら資料をめくっていた。白髪交じりの小柄な女性。北中国の技術者、旧人間魚雷開発者で構成されるチームワルプルギスの責任者である
「ロケットでも、魚雷でも数を作れば安定するのさ。場数よ、場数。
今月だけで100本。累計で500本以上、不安の種は出尽くした」
窓の外では、組み立て棟のクレーンがゆっくりと動いている。
組み立て台、前回より遠くなってるが、誰も何も言わなかった。
「このロケットシリーズの名前、ライジングって……」
「魚雷と同じ名前は気になるかね? ライジングサン(日本)をライジング(昇天)させる。天を回す。大逆転のロケットさ」
キャロルだけが、コーヒーを飲みながら窓の外を見ていた。
その時、ドロシー大統領から電話が入った。
「日本の無人探査機が、この世界の月面でアポロ11を見つけたと発表したわ。Surprise!そして、半年後に有人月面着陸を行うと宣言したわ。明日の我が国の無人探査機のミッションにアポロ11の調査を最優先で組み込んでちょうだい。それから、半年後に有人月面着陸が可能なプランを検討してちょうだい」
1週間後、
壁の工程表が、全員の視線を引きつけた。
日本月面探査計画まで、あと173日。
赤い数字だった。
キャロル
「月航行船の設計変更、最終案です。
着陸船の乗員を、当初の2名から1名オペレーションに変更します。
そして、全オペレーションの乗員も3人から2人に減らす。
技術的に困難な軌道上での液体燃料補給は中止します。
代わりに、固体燃料の推進モジュールを地上から別途打ち上げ、軌道上で宇宙船にドッキングさせます。
液体燃料は減速と軌道修正用に限定します。
帰還用は着陸船の主推進機を兼用します
この構成で低軌道上で60トン。リバイアサン3回で打ち上げ可能」
シモーヌ
「兼用。帰還用の推進機を着陸に使う。つまり、着陸に失敗したら帰れない。
バックアップがない。
3人ミッションで未帰還確率30%、修正案? の2人ミッションの未帰還率50%。
どちらでも1人と考えてるなら、人命を数字にしてしまうのは、傲慢でしかないわ」
キャロルは工程表に近づき、173という数字を指でなぞった。
「あと173日で、日本が月へ行く。
80トンの宇宙船を用意する時間はありません。
ニナとラヴェルは友人です。死なせるつもりはありません。
喜んで従います。
1年後に延期すると命令してください」
シモーヌ
「2人ミッションの未帰還率を30%に下げて、ダメだったら延期を大統領に進言します。
度胸と、紙一重の幸運。それだけでは不十分よ」




