衆議院選挙前日
衆議院選挙・投票日前夜
東京、某民放テレビ局。選挙特番の準備が続く報道フロア。
モニターの前に座った解説者が、手元の数字を見ながら首を振った。
「正直に言いますよ。私には分かりません。
過去のどの選挙とも似ていないんです。与党の民自党は盤石な組織票を持っている。
でも政治家になろう!の候補者名簿を見ると――
前回選挙から変更された比例が、新制度の影響ですごいことになっています。
衆議院の比例が参議員と同じ全国区。
小選挙区で落選した議員は、選挙区で獲得した得票数を比例での順位判定に利用できる。
得票数の少ない候補者を比例で復活させない制度ですが、定数150の比例に、なろう!が700人以上の候補者を立てています。
制度的には可能ですが、こうして見ると異常と言わざるをえませんね」
さらに、なろう!の候補者が紹介されていく、
「旧野党の元大臣3人を含む元議員が34人。地方と落選中の議員242人。人気ユーチューバーが27人、大学教授が12人、現役の弁護士が9人、タレント22人。経営者56人。左右両方のポピュリスト系議員まで鞍替えしてる。その他と合計で722人。
これ、一つの政党の候補者リストじゃないですよ。人材派遣会社です」
コメンテーター
「中道派過激政党、いや、無道政党ですよ。
こんなの普通じゃない。無責任だ。
当選結果で政策を決めるなんて、PVでストリー決めるWEB小説家みたいな政党だ」
「でも、当選者のメンバーで民意を反映している」
「政党政治の否定です。たとえ、間違って選挙で過半数とっても、明後日には党の代表が村上氏から他の誰かに変わってるかもしれない。こんな党の何を信じたらいいんですか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新宿、民事党選挙対策本部。
選対委員長が、都道府県別の情勢分析を壁に貼りながら言った。
「東日本が読めん」
隣で煙草を揉み消した副委員長が答える。
「物価ですよ。食料品は上がった。でも給料は阪神ほど上がってない。東北の主婦層が政権に厳しい数字を出してる」
「異世界観光客の問題は?」
「渋谷、新宿、浅草あたりで可視化されてますからね。背の高い女性が大挙してくると、まあ目立ちます」
「あれは政権のせいじゃないんだがなあ」
「そうなんですが、目に見えるものへの反発は合理的じゃないので」
「沖縄は」
「鉄板です。死者1000人未満での終結は、本土よりはるかに評価されています。むしろ沖縄が支えてくれてる状況で」
次に地図の東日本エリアに視線を這わせた。
「ほぼ全ての選挙区に旧野党の議員や秘書、地方議員が出てる。小選挙区なのに2人立候補してるとこが5つもある。」
「旧野党の連中が、なろう!の看板を借りて出てくる。有権者から見たら、名前は知ってる候補者が急に新しい政党から出てきた、って見える。それが票になるのか、逆効果なのか、全然読めない。野党の組織票がどう動くのかさえも」
「なろう!本体は、どう思ってるんでしょうね」
「さあ。あの連中、何考えてるかまったく分からんからな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「政治家になろう!」選挙対策本部。
WEBセミナーに押されて、使用予定が無かった研修センターの大ホールを、3週間借りれたのは幸いだった。
そこに、党の実務を担うスタッフ十数人が詰めていた。
明後日までの党代表の村上が、ホワイトボードに書かれた候補者リストを眺めながら深呼吸した。
「現時点で公認候補722人。そのうち、元旧野党議員が34人。ユーチューバー系が27人。それから――左右のポピュリスト系の人たちが31人」
「あの人たち、党の政策綱領を読んでないと思うんですよね。供託金を振り込んで、規約上の要件だけ満たして、あとは自分の好きなことを言ってる」
「規約がそうなってるんだからしょうがない」
「でも問題は政策じゃなくて党首選ですよ」
村上は頷いた。
「残念ながら、最多得票者が党首。今の規約上、それは動かせない。
・・・・・・・つまり、多分、考えたくないけど、十中八九・・・・・・僕だ。」
「世論調査通りならそうなりますね」
「2位に5倍も差をつけてんだ。逆転なんかするもんか。実質大統領選挙とか言って盛り上がってるやつらの気が知れないよ。今、笑っただろ、山本さん。あなただって小政党の事務局長兼政策スタッフから、大政党の幹事長になるんだからな。幹事長は国会議員に限るなんて、どこにも書いてないぞ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
東京、総理官邸私室。
麻田総理は湯呑みを手に、テレビの音量を絞ったまま、各局の世論調査速報を見比べていた。
直子がお茶のお代わりを置きながら言う。
「どうですか」
「読めんな」
総理は素直に答えた。
「与党の組織票は固い。でも浮動票がどこへ行くか」
「なろう!に行くんじゃないですか」
「それが読めんと言っとる。あそこ、候補者がバラバラすぎてどの票を集めるのか全然分からん。旧野党票なのか、無党派なのか、それとも我が党から離れた保守票なのか」
直子は父の隣に腰を下ろした。
「どちらが勝つと思いますか」
総理は少し間を置いた。
「古い左派が3か4。残りが、我が党となろう!。議席数は、ほぼ同数。差が開いても20議席まで。
我が党が過半数を取れるかどうか、だな。取れれば政権続行。なろう!は一つにならない。法案ごとに賛成と反対に分かれて投票するから、国会対策はむしろ楽だ。
問題は、我が党が負けた時だ。
党首は村上のままで間違いない。
あいつは本人は常識人だ。AIのサポートもある。信用していい。
だが、他がわからん。旧野党の乗っ取り、ポピュリストや活動家、名声目当ての素人。
不安しかない」
総理は湯呑みを置いた。
「まあ、民主主義というのは、本来そういうものかもしれんがな」
テレビの中では、各局のキャスターが同じように首を傾けていた。
誰も、明日の結果を知らなかった。
投票日まで、あと一夜。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドロシーは選挙速報の予定表を眺めていた。
「麻田が勝てば現状維持。
負ければ日本政治は数か月止まる。
……どちらでも、メリケンは準備を続けるだけよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
響子
「お願いですから麻田総理続投でお願いします。
今更、交渉相手が変更は勘弁して下さい。」
香澄
「それは外交官全員が思っています。」




